不動産の囲い込みとは?大手に依頼するほど危ない理由と自分を守る5つの方法
執筆者:松村保誠(宅建士・1級FP技能士・マンション管理士)
2026年6月26日

「思ったより安くなってしまったけど、まあ仕方ないか」
不動産を売り終えた後、そう自分に言い聞かせた方は少なくないはずです。でも実際には「仕方なかった」のではなく、売却を依頼した不動産会社によって意図的に安く売らされていた——そんなケースが、この業界では日常的に起きています。その仕組みを「囲い込み」と呼びます。
囲い込みとは、売却を依頼された不動産会社が、他社からの購入希望者を意図的にシャットアウトし、自社だけで売買を完結させようとする行為です。売主には何も知らされないまま進むため、被害に気づくことすらできません。損失は数百万円、場合によっては1,000万円を超えることもあります。
「大手の有名会社に頼んだから大丈夫」——その安心感こそが、実は最も危険かもしれません。
この記事では、囲い込みの仕組みから見抜き方、具体的な対策まで、売主が本当に知っておくべきことをすべて解説します。
1. 「囲い込み」とは何か?仕組みをわかりやすく解説

両手仲介と片手仲介の違い
不動産の売買取引では、売主と買主のそれぞれに仲介会社が入るのが一般的です。売主側の仲介会社と買主側の仲介会社が異なる場合、それぞれが自分のクライアントから仲介手数料を受け取ります。これを「片手仲介」と呼びます。
一方、1社が売主と買主の両方を担当し、双方から仲介手数料を受け取る形を「両手仲介」と言います。仲介手数料は売買価格の最大3%+6万円(税別)が上限ですから、3,000万円の物件であれば片手で約96万円、両手なら約192万円——同じ取引でも、得られる報酬が単純に2倍になります。
両手仲介そのものは違法ではありません。問題は、この「両手仲介を狙う」という動機が、囲い込みという不正行為につながる点です。
なぜ不動産会社は囲い込みをするのか
売却を依頼された不動産会社は、「レインズ(REINS)」と呼ばれる不動産業者間の物件情報共有システムへの登録が義務付けられています。レインズに登録された物件情報は全国の不動産会社が閲覧でき、他社の営業担当者が購入希望者を連れてくることができます。
しかしここで問題が起きます。他社が買い手を見つけてきた場合、売主側の仲介会社が受け取れるのは売主からの片手分だけです。ならば他社に買い手を紹介させず、自社で買い手も見つければ両手分を独占できる——この発想が囲い込みの出発点です。
具体的な手口としては、他社の営業担当者から「この物件を見たいというお客様がいます」と問い合わせが入っても、「すでに商談中です」「売主の都合で内見できません」などと虚偽の理由を告げてシャットアウトします。実際には何の商談も進んでいないにもかかわらずです。売主はこのやり取りをまったく知らないまま、有力な購入者候補になるはずだった内覧希望者が次々と弾かれていきます。
囲い込みは違法ではないのか?
結論から言えば、現行法では囲い込みを直接罰する規定はなく、グレーゾーンとして長年黙認されてきた慣行です。宅地建物取引業法はレインズへの登録義務や、依頼者への報告義務を定めていますが、他社からの問い合わせに対してどう対応するかまでは細かく規制されていません。
国土交通省もこの問題を重く見て、近年は指導強化の方針を示していますが、実態として業界全体から囲い込みがなくなっているとは言えないのが現状です。制度の網の目をくぐりながら行われるこの慣行に対抗するには、売主自身が仕組みを理解し、自衛するほかありません。
2. 囲い込みで売主が被る損害の実態

売却価格が下がるメカニズム
不動産の売却価格は、突き詰めれば「何人の買い手が競っているか」で決まります。買い手が多ければ価格は上がり、少なければ下がる——これは至ってシンプルな需給の原理です。
囲い込みはこの原理を歪めます。他社からの内覧希望者を次々と弾くことで、競争に参加できる買い手の数が人為的に絞られます。結果として売主は、本来であれば複数の候補者の中から最も良い条件を提示した人を選べるはずが、その不動産会社の自社顧客という限られたプールの中からしか買い手を選べない状況に追い込まれます。
さらに厄介なのは、買い手の選択肢が少ないと売主の交渉力も自然と弱まることです。「他にも興味を持っている方がいる」という状況がなければ、価格交渉で強気に出ることは難しくなります。
具体的な損失額のシミュレーション
では実際にどれくらいの損失が生じるのか、具体的な数字で見てみましょう。
たとえば市場価格5,000万円の物件を売却する場合を考えます。本来であれば複数の購入希望者が競い合う状況なら、満額あるいはそれに近い価格での成約も十分あり得ます。しかし囲い込みによって買い手が1社の自社顧客に絞られた場合、価格交渉の余地が生まれ、200〜300万円の値引きはごく普通に起こります。
物件の希少性が高い場合や、本来であれば引き合いが多かったはずのケースでは、その差はさらに広がります。相場より500万円、場合によっては1,000万円以上低い価格で成約してしまったという事例は、決して誇張ではありません。売主にとっては一生に一度の大きな取引です。その損失がいかに深刻かは、言うまでもないでしょう。
売却期間が長引くリスク
囲い込みの被害は価格だけにとどまりません。買い手の母数を人為的に絞ることで、成約までの期間が不必要に長引くリスクもあります。
売却期間が延びると、固定資産税や維持管理費の負担が続くだけでなく、売主が次の住み替えをできなかったり、それに向けての資金計画を立てにくくなったりします。また、市場に長く出回っている物件は「何か問題があるのではないか」と買い手に敬遠されやすくなるという心理的な効果も働き、さらに価格を下げざるを得ない悪循環に陥ることもあります。
囲い込みは「価格」と「時間」の両面から、売主に静かに損害を与え続けるのです。
3. 囲い込みは「大手」ほど起きやすい

大手の集客力が逆に仇になる理由
「大手の不動産会社に頼めば、それだけ多くの買い手に情報が届く」——この考え方は間違っていません。大手は確かに広告力があり、集客力も高い。しかしここに、囲い込みが生まれる温床があります。
大手は自社の広告網やポータルサイトへの掲載力を通じて、日々多くの購入希望者を自社に囲い込んでいます。つまり「自社で買い手を見つけられる可能性」が小さな不動産会社に比べて格段に高い。そのため、わざわざ他社に買い手を紹介させなくても両手仲介を狙える環境が整っているのです。集客力が高いほど、囲い込みの動機と実行力が同時に揃ってしまうという皮肉な構造があります。
小規模の不動産会社が囲い込みをしにくい理由
一方、地域の小さな不動産会社はどうでしょうか。そもそも自社に抱えている購入希望者の数は、大手と比べて圧倒的に少ない。囲い込みを試みたところで、自社だけで買い手を見つけられる保証がないのです。
売却できなければ仲介手数料はゼロです。それならば他社の力を借りてでも早期に成約させた方が、会社として合理的な判断になります。小規模の不動産会社が積極的に他社と連携しようとするのは、義理や人情からではなく、ビジネス上の必然でもあるのです。
「大手だから安心」という思い込みが危険な理由
もちろん、大手がすべて囲い込みをしているわけではありませんし、誠実に業務を行っている担当者も大勢います。しかし構造的に見たとき、囲い込みが起きやすい条件が揃っているのは大手である——これは否定しにくい現実です。
「知名度があるから信頼できる」「テレビCMをやっているから大丈夫」という判断基準だけで不動産会社を選ぶことの危うさは、ここにあります。大切なのは会社の規模やブランドではなく、担当者や会社が売主の利益を本当に優先して動いてくれるかどうかを見極めることです。その見極め方については、後のセクションで詳しく解説します。
囲い込みリスクを最小化する方法についてコチラ。
不動産売却は大手より地場業者を選ぶべき理由——囲い込みリスクと業者選びの正解
4. 囲い込みが行われているサインを見抜く5つのチェック

① レインズの登録状況を自分で確認する
囲い込みを見抜く最も確実な方法のひとつが、レインズへの登録状況を自分の目で確かめることです。
専任媒介契約または専属専任媒介契約を結んだ場合、不動産会社には契約から一定期間内にレインズへ物件を登録する義務があります。専属専任媒介なら5日以内、専任媒介なら7日以内です。登録が完了すると、売主は「登録証明書」を受け取る権利があります。
しかしここで注意が必要です。レインズに登録されていても、物件のステータスが「商談中」に設定されていれば、他社の営業担当者はその物件に問い合わせをしづらくなります。実際には何の商談も進んでいないのに、このステータスを悪用して他社をシャットアウトするケースがあります。登録証明書を受け取るだけでなく、登録内容のステータスまで確認することが重要です。
② 内見の件数が極端に少ない
売り出してから数週間が経過しても内見がほとんど入らない場合、価格設定の問題ではなく囲い込みが疑われることがあります。特に立地や価格帯に問題がないと思われる物件で内見が少ない場合は要注意です。
担当者に「今週は何件問い合わせがありましたか」と具体的な数字を聞いてみましょう。曖昧な答えしか返ってこない、あるいは「市場が静かで……」という説明が続くようであれば、活動実態を疑う理由になります。
③ 「良いお客様がいます」という話が早すぎる
媒介契約を結んだ直後、あるいは売り出して間もないタイミングで「うちにちょうど良いお客様がいます」と担当者から話が出た場合は、冷静に考える必要があります。
もちろん本当にタイミングよく買い手が見つかることもあります。しかし、広く市場に情報を出す前から自社顧客への売却を誘導しようとしているケースもあります。そのお客様の提示条件は本当に市場の相場に見合っているか、他の買い手候補と比較できる状況になっているかを必ず確認してください。売り出し価格を不当に安い水準に誘導されてしまった可能性も疑ってみる必要があると思います。
④ 販売活動の報告が曖昧・少ない
専任媒介契約では2週間に1回以上、専属専任媒介契約では1週間に1回以上、不動産会社には売主への活動報告義務があります。この報告が形式的で内容が薄い、あるいは「特に動きはありませんでした」という一言で済まされているようであれば注意が必要です。
報告内容には、どのような媒体に掲載したか、何件の問い合わせがあったか、内見の結果どうだったかといった具体的な情報が含まれるべきです。報告の質を見ることは、担当者が本当に売却活動に真剣に取り組んでいるかを測るバロメーターにもなります。
⑤ 「テスト問い合わせ」で実態を確かめる
これは少し手間がかかりますが、確実性の高い方法です。知人や家族に別の不動産会社の営業担当者を装って、売却を依頼している物件に問い合わせをしてもらうのです。
そのとき「内見したいお客様がいるのですが」と伝えて、どんな対応が返ってくるかを確認します。「商談中です」「売主の都合で対応できません」といった不自然な断り方が返ってきた場合、囲い込みが行われている可能性が高いと判断できます。
5. 囲い込みを防ぐために売主ができる具体的な対策

媒介契約の種類を理解して選ぶ
不動産会社に売却を依頼する際に結ぶ「媒介契約」には、一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の3種類があります。それぞれの特徴を正しく理解したうえで選ぶことが、囲い込み対策の出発点になります。
一般媒介契約は複数の不動産会社に同時に依頼できる契約です。複数社が競い合う形になるため、囲い込みが構造的に起きにくいという利点があります。ただし各社の活動に義務が少なく、積極的に動いてもらえないケースもあります。
専任媒介・専属専任媒介は1社に絞って依頼する契約で、会社側に活動報告義務やレインズ登録義務が課されます。手厚いサービスが期待できる反面、囲い込みのリスクも高まります。1社に絞る場合は、後述する確認作業をより丁寧に行う必要があります。
媒介契約の種類の正しい選び方についてはコチラ。
媒介契約の選び方で損をしない|一般・専任・専属専任の違いを売主目線で徹底解説
レインズの登録証明書を必ず受け取る
専任媒介・専属専任媒介契約を結んだ場合、レインズへの登録後に発行される「登録証明書」を必ず受け取ってください。この証明書には登録番号が記載されており、売主専用のログイン情報を使ってレインズの登録内容を自分で確認することができます。
確認すべきポイントは、登録されているかどうかだけでなく、物件のステータスです。「公開中」になっているか、不自然に「商談中」になっていないかを定期的にチェックする習慣をつけましょう。
契約前に「囲い込みをしない」という確認を取る
媒介契約を結ぶ前に、担当者に対して「他社からの問い合わせや内見依頼はすべて受け付けてもらえますか」と明確に確認しておきましょう。口頭でも効果はありますが、できれば書面やメールなど記録に残る形で確認しておくと、後から証拠として使えます。
この質問をしたときの担当者の反応も、ひとつの判断材料になります。当然のこととして快く応じるか、それとも言葉を濁すか——担当者の誠実さを測る機会にもなります。
定期的に販売活動の報告を求める
契約上の報告義務があるとはいえ、受け身で待つだけでなく売主側から積極的に報告を求める姿勢が大切です。「先週は何件問い合わせがありましたか」「内見はどのくらい入っていますか」と具体的な数字を定期的に確認することで、担当者に緊張感を持って活動してもらうことにもつながります。
報告内容が毎回漠然としていたり、数字を聞いても明確な答えが返ってこなかったりする場合は、契約する不動産会社の変更も視野に入れるべきでしょう。
不審を感じたら迷わず契約を見直す
囲い込みの疑いが生じた場合、専任媒介・専属専任媒介契約であっても一定の条件下では解除が可能です。「活動報告が不十分」「レインズへの登録が遅れた」など、不動産会社側の義務違反が認められる場合は、契約解除の正当な理由になり得ます。
「せっかく契約したから」「気まずくなるから」という遠慮は無用です。売却は売主にとって大きな資産を動かす取引です。少しでも不信感を覚えたら、早めに動くことが損失を最小限に抑えることにつながります。
6. まとめ:囲い込みから身を守るために

囲い込みは、売主が気づかないまま静かに進み、取引が終わった後も気づかれないことがほとんどです。被害を受けたことすら知らずに「仕方なかった」と納得してしまう——それがこの慣行の最も罪深いところです。
あらためて、この記事でお伝えしたことを整理します。
囲い込みは、両手仲介による報酬の独占を狙って行われます。そしてその動機と実行力が揃いやすいのは、集客力のある大手不動産会社である場合が多い。「大手だから安心」という思い込みは、むしろ警戒心を鈍らせるリスクがあります。
一方、小規模な不動産会社は自社の購入客が限られているため、囲い込みを行う実益に乏しく、他社と積極的に連携しようとする傾向があります。会社の規模やブランドだけで判断せず、担当者や会社が本当に売主の利益のために動いてくれるかどうかを見極めることが重要です。
囲い込みを見抜くためには、レインズの登録状況とステータスを自分で確認すること、内見件数や問い合わせ数を定期的に数字で把握すること、そして少しでも不審を感じたら迷わず行動に移すことが大切です。
不動産の売却は、多くの方にとって人生で何度もない大きな取引です。数百万円、場合によっては1,000万円以上の差が、依頼する会社と自分自身の知識によって生まれることがあります。この記事が、大切な資産を守るための一助になれば幸いです。
執筆者:松村保誠
宅建士・1級FP技能士・マンション管理士
宅建士3200名超を指導、不動産関連著書9冊


