相続した実家の売却|手続きの流れから税金・よくある失敗まで実務家が解説
執筆者:松村保誠(宅建士・1級FP技能士・マンション管理士)
2026年6月26日

相続した実家の売却は、正直なところ面倒くさい。
不動産業に20年以上携わってきた私でさえ、いざ自分の実家を売るとなったときは、地元の不動産会社にほぼ丸投げしてしまったくらいです。距離的には車で1時間ほどの場所でしたが、それでもそう感じたのですから、遠方に実家がある方はなおさらでしょう。
ただ、丸投げには大きなリスクが伴います。不動産のことをよく知らないまま任せてしまうと、高い確率で不動産会社にとって都合のいい形で話が進んでいきます。知らないうちに何百万円も損をしていたということも普通に起こりうるでしょう。
この記事では、相続した実家の売却を検討されている方に向けて、手続きの流れ・費用・税金・注意点を実務家の視点で解説します。「面倒だから」と丸投げする前に、最低限押さえておくべきポイントだけでも確認しておいてください。それだけで結果は大きく変わります。
まず確認|相続した実家を売却できる状態か?

売却活動を始める前に、いくつか確認しておくべき事項があります。これらが整っていないと、途中で手続きが止まってしまうことがあります。
遺言書の有無を確認する
まず最初に確認すべきは遺言書の有無です。遺言書がある場合は原則としてその内容に従って相続手続きを進めることになり、相続人全員で改めて協議する必要はありません。逆に遺言書がない場合は、誰がどの財産を相続するかを相続人全員で話し合い、遺産分割協議書を作成する必要があります。その後の手続きがすべて変わってくるため、遺言書の有無の確認が出発点になります。
相続人全員の合意が取れているか
遺言書がない場合、相続した不動産を売却するには相続人全員の合意が必要です。誰か一人でも反対すれば売却は進められません。
これが実質的な最大の関門です。相続人間で意見が割れたまま話を進めようとすると、売買契約の直前になって誰かがゴネ出す、といった最悪の事態になりかねません。そうなると買主にも迷惑がかかり、場合によっては契約が白紙になります。売却活動に入る前に、必ず全員の意思統一を済ませておいてください。
相続登記(名義変更)は済んでいるか
亡くなった方の名義のままでは不動産を売却することができません。相続登記、つまり不動産の名義を相続人に変更する手続きが必要です。
なお、相続登記は2024年4月から義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。放置は厳禁です。
実務的には、相続登記を先に完了させてから売りに出すのが原則ですが、査定や媒介契約の締結は登記完了前でも進めることができます。売買契約の締結・引渡しまでに登記が完了していればよいため、売却活動と並行して手続きを進めるケースも少なくありません。登記申請の際には遺産分割協議書(遺言書がない場合)が添付書類として必要になります。司法書士に依頼すれば、作成から登記申請までまとめて対応してもらえます。
「早く売る」が基本戦略である理由

相続した実家をどうするか、感情的にすぐには決められないという方も多いと思います。しかし実務的な観点からいえば、売却を決めたなら早く動くほど有利です。その理由を説明します。
空き家の維持コストは想像以上にかかる
人が住まなくなった家でも、固定資産税は毎年かかります。加えて、管理のための交通費・光熱費・草刈りや清掃の費用なども積み重なります。遠方に実家がある場合、定期的な管理だけでもかなりの負担になります。活用もできないのに費用だけが出続ける状態は、早めに解消するに越したことはありません。
建物は人が住まなくなると急速に傷む
これは実務をやっていると肌で感じることですが、空き家になった建物の劣化スピードは、人が住んでいる建物と比べものになりません。換気されない、水道を使わない、小さな不具合に誰も気づかない——こうした状態が続くと、数年で建物の状態が大きく悪化します。売れる物件が、売りにくい物件になっていくのです。
特定空き家に指定されると固定資産税が跳ね上がる
管理が行き届かず、周辺環境に悪影響を与えていると行政に判断された場合、「特定空き家」に指定されることがあります。指定されると住宅用地の特例が解除され、固定資産税が最大6倍になります。さらに行政指導・勧告・命令と段階が進み、最終的には行政代執行で強制解体され、その費用を請求されるケースもあります。
「すぐ売るのは薄情」は思い込みにすぎない
親が亡くなった直後は感傷的になるのは自然なことです。しかし、亡くなった親の立場から考えれば、死んでまで子供に面倒や費用の負担をかけたいとは思っていないはずです。実家を売ることは、親への敬意を欠く行為ではありません。早めに売却してすっきりさせることが、結果として家族全員にとって最善であることがほとんどです。
売却の手続きの流れ

相続した実家の売却は、通常の不動産売却と基本的な流れは同じですが、相続特有の手続きが加わります。全体の流れを把握しておくと、どこで何をすべきかが見えやすくなります。
ステップ1:相続人間で合意形成
まず相続人全員で売却の方針を確認します。売却価格の目安、売却時期、費用の分担など、後でもめやすいポイントをあらかじめ話し合っておくと、取引がスムーズに進みます。
ステップ2:不動産会社に査定を依頼する
合意が取れたら、不動産会社に査定を依頼します。査定は必ず複数社に依頼してください。1社だけでは適正価格かどうかの判断ができません。査定額と併せて、その会社の対応や説明の質も見ておきましょう。
ステップ3:媒介契約の締結・売却活動
売却を依頼する不動産会社を決めたら、媒介契約を締結して売却活動が始まります。相続登記がまだ完了していない場合でも、この段階までは並行して進めることができます。
ステップ4:相続登記(名義変更)
売買契約の締結・引渡しまでに完了していれば問題ありません。売却活動と並行して司法書士に依頼しておくとスムーズです。
ステップ5:売買契約の締結
買主が見つかり条件が整ったら売買契約を締結します。契約時には手付金を受け取ります。付帯設備表・物件状況等報告書をしっかり作成しておくことが、後のトラブル防止につながります。
ステップ6:引渡し・残代金の受領
残代金を受け取り、鍵を引き渡して売却完了です。この日までに残置物の撤去と相続登記の完了が必要です。
ステップ7:確定申告
売却した翌年の2月16日から3月15日の間に確定申告が必要です。譲渡所得が発生した場合はもちろん、特例を使って税金がゼロになる場合も申告が必要なケースがありますので、忘れずに対応してください。
不動産会社の選び方と「丸投げ」の危険性

相続した実家の売却において、不動産会社選びは結果を大きく左右します。そして、選んだ後の関わり方も同じくらい重要です。
査定は必ず複数社に依頼する
査定額は不動産会社によって大きく異なることがあります。1社だけに査定を依頼すると、その金額が適正かどうかを判断する術がありません。最低でも3社程度に依頼し、査定額の根拠をそれぞれ説明してもらってください。
なお、査定額が高い会社が必ずしもよい会社とは限りません。根拠のない高額査定で媒介契約を取り、後から値下げを求めてくる会社もあります。査定額だけでなく、説明の内容や担当者の対応も見極めの材料にしてください。
地元の不動産会社と大手、どちらがいいか
一般的には、地元の小さな不動産会社の方が囲い込みのリスクが低くおすすめです。ただし、相続した実家の売却のように手続きが複雑になる取引では、対応力のある大手の方が安心なケースもあります。
いずれにしても、会社の規模よりも担当者個人の能力と質が結果を左右します。査定時の説明がわかりやすいか、質問に対して的確に答えられるか、といった点をしっかり見極めた上で判断してください。
「丸投げ」をすると何が起きるか
面倒だからと不動産会社に全て任せてしまうと、高い確率で売主にとって不利な形で話が進みます。具体的には以下のようなことが起こりえます。
- 本来もっと高く売れたはずの物件が、早期に値下げされて売られる
- 不動産会社が売主・買主双方の仲介を行う「両手仲介」を優先するために、他社からの買主候補が紹介されない
- 不必要なリフォームや解体を勧められ、余計な費用が発生する
これらは売主が関与していないと気づきにくいのが厄介なところです。
最低限やっておくべき「監視」のポイント
丸投げはしないにしても、すべてを細かく管理するのは現実的ではありません。最低限以下の点だけは確認するようにしてください。
レインズへの登録確認
媒介契約締結後、専任媒介・専属専任媒介契約の場合は一定期間内にレインズ(不動産流通機構のシステム)への登録義務があります。登録されているかどうかは売主も確認できますので、チェックしておきましょう。登録されていなければ、他社からの買主が紹介されない状態になっている可能性があります。
活動報告の内容を確認する
専任媒介・専属専任媒介契約では、不動産会社には定期的な活動報告の義務があります。報告が来たらその内容をきちんと確認し、問い合わせ件数や内覧状況などを把握しておいてください。
値下げ要求には慎重に応じる
売り出してすぐに値下げを勧めてくる会社には注意が必要です。適切な価格設定と売却活動が行われているかを確認した上で、値下げの判断は慎重に行ってください。
遠方の実家を売却する場合の注意点
実家が遠方にある場合、内覧対応や鍵の管理を不動産会社に任せることになり、その分活動内容が見えにくくなります。報告の頻度や連絡体制について、契約前にしっかり確認しておくことをお勧めします。
売却にかかる費用

相続した実家を売却する際には、さまざまな費用が発生します。事前に把握しておくことで、手取り額の見通しが立てやすくなります。
仲介手数料
不動産会社に支払う報酬で、売却費用の中で最も大きな金額になります。法律で上限が定められており、売買価格が400万円超の場合は「売買価格×3%+6万円(税別)」が上限です。例えば売買価格が3,000万円であれば、仲介手数料の上限は96万円(税別)になります。
登録免許税(相続登記)
相続登記の際にかかる税金です。固定資産税評価額の0.4%が税率となります。
司法書士費用
相続登記や売買契約時の所有権移転登記を依頼する際の費用です。費用は依頼内容や地域によって異なりますが、10万円前後が目安です。
印紙税
売買契約書に貼付する収入印紙の費用です。売買価格によって金額が異なり、例えば1,000万円超5,000万円以下の契約書であれば1万円です。
残置物撤去・清掃費用
実家に家具や家電などが残っている場合、引渡し前に撤去する必要があります。量や内容によって費用は大きく変わりますが、一般的な一戸建てで数万円から数十万円程度を見ておくとよいでしょう。
解体費用(更地にして売る場合)
建物を解体して更地にしてから売却する場合は、解体費用が発生します。木造一戸建ての場合、建物の規模にもよりますが100万円から300万円程度が目安です。ただし、更地にすることが必ずしも有利とは限りません。詳しくは7章で触れます。
費用の目安一覧
| 費用項目 | 目安 |
| 仲介手数料 | 売買価格×3%+6万円(税別)※上限 |
| 登録免許税 | 固定資産税評価額×0.4% |
| 司法書士費用 | 10万円前後 |
| 印紙税 | 1万円~(売買価格による) |
| 残置物撤去・清掃 | 数万円~数十万円 |
| 解体費用(更地の場合) | 100万円~300万円程度 |
税金|相続した実家を売ると何が課税されるか

相続した不動産を売却した場合、譲渡所得税がかかることがあります。ただし、相続した実家の売却には使える特例が複数あり、うまく活用すれば税負担を大幅に抑えられます。
譲渡所得税の基本
不動産を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して税金がかかります。譲渡所得は以下の計算式で求めます。
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
取得費とは、その不動産を取得するためにかかった費用の合計です。購入価格だけでなく、購入時の仲介手数料や登記費用なども含まれます。なお建物については、購入価格から減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費となります。譲渡費用は仲介手数料など売却にかかった費用です。譲渡所得がプラスになった場合に課税されます。
税率は不動産の所有期間によって異なります。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」として20.315%、5年以下の場合は「短期譲渡所得」として39.315%が適用されます。
譲渡所得税の詳細についてはコチラ。
不動産を売ったら税金はいくら?譲渡所得税の仕組みと計算方法を徹底解説
相続した不動産の「取得費」の考え方
相続した不動産の取得費は、被相続人(亡くなった方)が購入した時の価格を引き継ぎます。購入時の契約書などが残っていれば問題ありませんが、古い物件の場合は書類が残っていないこともあります。その場合は売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」を使うことになりますが、これだと譲渡所得が大きくなり税負担が重くなるため、購入時の書類はできる限り探しておくことをお勧めします。
所有期間の考え方
相続した不動産の所有期間は、被相続人が取得した日から起算します。つまり、親が30年前に購入した実家を相続した場合、相続してすぐに売却しても長期譲渡所得の税率が適用されます。
3,000万円特別控除(空き家特例)
相続した空き家を売却した場合に使える特例で、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。適用要件の主なものは以下の通りです。
- 1981年5月31日以前に建築された建物であること(旧耐震基準)
- 相続の開始直前まで被相続人が一人で居住していたこと
- 相続から売却まで、賃貸・事業用・居住用として使用していないこと
- 売却価格が1億円以下であること
- 売却時に耐震基準を満たしているか、建物を解体して更地にしていること
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
要件が細かく、見落としがあると特例を使えなくなります。早めに税理士に確認することをお勧めします。
取得費加算の特例
相続税を支払っていた場合に使える特例です。支払った相続税の一部を取得費に加算することができ、譲渡所得を圧縮できます。3,000万円特別控除との併用はできませんので、どちらが有利かは個別に試算する必要があります。
確定申告を忘れずに
不動産を売却した翌年に確定申告が必要です。特例を適用した結果、税額がゼロになる場合でも申告が必要なケースがありますので注意してください。不動産の譲渡所得に関する確定申告は、税理士に依頼することをお勧めします。
よくある失敗・トラブルと対処法

手続きの流れや税金の知識を押さえた上で、最後に実務でよく見かける失敗パターンを紹介します。事前に知っておくだけで防げるものがほとんどです。
相続人の一人が直前になって反対する
売買契約の直前や、場合によっては契約後に相続人の一人が「やっぱり売りたくない」と言い出すケースがあります。こうなると取引は止まり、買主にも多大な迷惑をかけることになります。最悪の場合、手付金の倍返しなど損害賠償問題に発展することもあります。
1章でも触れましたが、売却活動に入る前に相続人全員の意思統一を徹底しておくことが、最大のリスク回避になります。
安易な値下げに応じてしまう
売り出してしばらくすると、不動産会社から「そろそろ価格を下げませんか」と提案されることがあります。値下げが必要な局面もありますが、売り出し直後や活動が十分でない段階での値下げ要求には慎重に応じてください。
値下げを検討する前に、レインズへの登録状況や問い合わせ件数など、活動の実態をまず確認してください。それで必要性を感じるようであれば、そこで初めて値下げを検討すれば十分です。
更地にしてから売って損をする
「古い建物より更地の方が売れやすい」と考えて解体する方がいますが、必ずしもそうとは限りません。更地にすると住宅用地の特例が外れ、固定資産税が上がります。また解体費用が100万円から300万円程度かかります。解体するかどうかは税務面だけでなく売却価格への影響も含めて判断すべきことですので、不動産会社と税理士の両方に相談した上で決めることをお勧めします。
境界が不明確なまま売りに出す
売主には境界を明示する義務があります。境界標がない、あるいは隣地との境界について確認したことがない場合は、早めに現地を確認し、必要であれば隣地所有者と話し合っておきましょう。
不動産売却時の境界の取り扱いついてはコチラ。
不動産売却に境界確定は必須ではない|現実的な2つの条件と図面の種類を解説
付帯設備表・物件状況等報告書の記載が不正確でトラブルになる
相続した実家の場合、売主自身がその物件に住んでいないケースがほとんどです。設備の動作状況や建物の不具合を正確に把握できていないまま付帯設備表や物件状況等報告書を作成してしまうと、引渡し後に「聞いていた内容と違う」と買主からクレームが入り、契約不適合責任を問われることがあります。
面倒でも、書類を作成する前に実際に現地を確認し、設備をひと通り動かしてみることが重要です。把握しきれない部分については「不明」と正直に記載する方が、あいまいな記載をするよりずっと安全です。
まとめ

相続した実家の売却は、手続きの多さと感情的な負担が重なり、面倒に感じるのは当然です。ただ、先送りにするほど維持費がかかり、建物の状態も悪化していきます。売却を決めたなら、早めに動くことが最善です。
この記事で伝えたかったことを最後に整理します。
相続人間の意思統一を最優先に。
全員の合意がなければ何も始まりません。売却活動に入る前に、必ず全員で方針を確認しておいてください。
不動産会社には任せすぎない。
面倒だからと丸投げにすると、知らないうちに不利な条件で話が進んでいることがあります。レインズの登録確認や活動報告の内容確認など、最低限の監視は怠らないようにしてください。
税金の特例は早めに確認する。
3,000万円特別控除(空き家特例)には期限や細かい要件があります。売却を決めた段階で税理士に相談しておくと安心です。
面倒くさいのは最初だけです。要所さえ押さえれば、相続した実家の売却はそれほど難しいものではありません。
執筆者:松村保誠
宅建士・1級FP技能士・マンション管理士
宅建士3200名超を指導、不動産関連著書9冊


