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契約不適合責任は売主の最大リスク|築年数別の対策と免責特約の使い方

執筆者:松村保誠(宅建士・1級FP技能士・マンション管理士)

2026年6月26日

売却した家で雨漏りが見つかったとの連絡を受け困惑する売主さん

家を売った後に、突然買主から「雨漏りがある」「床が傾いている」と連絡が来る――。

そんな悪夢のようなシナリオが、実際に多くの売主を苦しめています。

不動産の売却が無事に完了し、ほっと一息ついたのも束の間、数ヶ月後、あるいは数年後に買主からクレームが入り、高額な補修費用の負担を求められる。場合によっては「契約を解除したい」と言われ、受け取った代金を返還しなければならないケースさえあります。

その根拠となるのが、契約不適合責任です。

2020年の民法改正によって従来の「瑕疵担保責任」に代わり導入されたこの制度は、買主の権利をより広く、より強く保護するものとなりました。売主にとっては、以前にも増して重い責任を負うリスクがあると言っても過言ではありません。

特に問題となるのが、築年数を経た中古住宅です。

建物は年月とともに必ず劣化します。外壁にひびが入ることも、水回りが老朽化することも、長く使われた家であれば当然のことです。それでも契約不適合責任を無制限に負い続ければ、売主は売却後も何年にもわたって予測不能なリスクを抱え続けることになります。

受け取る売却代金は決まっているのに、負わされる責任は青天井――。これはあまりに理不尽ではないでしょうか。

この記事では、売主の視点に立って契約不適合責任の本質的なリスクを解説するとともに、免責特約をはじめとした現実的な自衛策をわかりやすくお伝えします。

これから不動産の売却を検討している方、すでに売却活動を進めている方にとって、この記事が「知らなかった」では済まされないリスクから身を守るための一助となれば幸いです。

契約不適合責任とは何か

契約不適合責任について説明する不動産コンサルタント

旧「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ――2020年民法改正で何が変わったか

不動産の売買において、売主が売却後も一定の責任を負う制度は以前から存在していました。それが「瑕疵担保責任」です。しかし2020年4月の民法改正により、この制度は「契約不適合責任」へと大きく刷新されました。

名称の変更だけにとどまらず、その内容は売主にとって実質的に不利な方向へと変化しています。

旧制度の瑕疵担保責任では、責任を問われるのは「隠れた瑕疵」、つまり通常の注意を払っても発見できなかった欠陥に限られていました。外から見てわかる劣化や不具合は、原則として責任の対象外とされていたのです。

ところが新制度の契約不適合責任では、「契約の内容に適合しているかどうか」が判断基準となります。隠れているかどうかは関係ありません。契約書や重要事項説明書に記載された内容と実際の物件の状態が少しでも食い違えば、それだけで責任を問われる可能性があります。

この変化は一見わずかなように見えますが、実際には売主が負うリスクの範囲を大きく広げるものです。

買主が持つ4つの権利

契約不適合責任が認められた場合、買主は売主に対して以下の4つの権利を行使することができます。

① 追完請求(修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し)

不具合のある部分を修理するよう求める権利です。売主は原則としてこれに応じなければなりません。

② 代金減額請求

追完(修補)が行われない場合などに、不具合の程度に応じて売買代金の減額を求める権利です。

③ 損害賠償請求

契約不適合によって買主が被った損害の賠償を求める権利です。修補費用にとどまらず、それに付随して生じた損害も対象となり得ます。

④ 契約解除

不具合が重大で、契約の目的を達成できないと判断される場合には、契約そのものを解除し、売買代金の返還を求めることができます。

旧制度では買主の権利は「損害賠償」と「契約解除」の2つに限られていましたが、新制度ではこれに「追完請求」と「代金減額請求」が加わりました。買主の手札が増えたぶん、売主が対応を迫られる場面も格段に増えたと言えます。

責任を問われる期間はいつまでか

契約不適合責任を問われる期間にも注意が必要です。

買主が契約不適合の事実を知った時から1年以内に売主へ通知した場合、その後の請求が可能となります。ただしこれはあくまで「通知」の期限であり、実際に裁判などで権利を行使するにはさらに別途、消滅時効の規定が絡んできます。

また、買主が契約不適合を知らなかった場合であっても、引き渡しから最長10年で権利は消滅します。

つまり売主は、引き渡しの日から最大10年間、契約不適合責任のリスクを抱え続けることになるのです。

不動産の売却代金は引き渡し時点で確定しているにもかかわらず、その後10年にわたって予測不能なリスクが続く――。この非対称性こそが、売主にとって契約不適合責任が「恐怖」と感じられる本質的な理由です。

【補足】実務では期間をもっと限定するのが一般的

ここまで民法の原則規定に沿って解説してきましたが、実際の不動産売買の現場では、契約不適合責任の期間を大幅に短縮する特約を設けることが広く行われています。

個人が売主となる中古住宅の売買では、「引き渡しから3ヶ月以内に発見された不具合に限り責任を負う」といった形で期間を限定するケースが多く見られます。これは不動産業界における一般的な商慣行として定着しており、買主側もある程度これを前提として取引に臨んでいます。

つまり実務の感覚では、民法が定める「最長10年」という期間がそのまま適用されることはほとんどなく、売主・買主双方の合意のもとで現実的な期間に調整されているのが実態です。

もちろん、期間を短縮するだけでは不十分なケースもあります。築年数が相当程度経過した物件では、短縮にとどまらず責任そのものを排除することを検討すべき場面も出てきます。この点については第4章で詳しく解説します。

売主にとって何がそんなに怖いのか

戸建ての2階の寝室で雨漏りしている様子

売却が完了しても、リスクはゼロにならない

不動産の売却において、多くの売主は「引き渡しが終われば一段落」と感じるものです。しかし契約不適合責任がある限り、引き渡しはゴールではありません。

売却代金はすでに受け取り、その多くは次の住居の購入や住宅ローンの返済に充てられているかもしれない。それでも数ヶ月後、あるいは1年後に買主からクレームが届けば、売主はその時点で対応を迫られます。手元に資金が残っていなくても、責任から逃れることはできないのです。

これが契約不適合責任の本質的な怖さです。リスクの発生タイミングと、売主が資金を持っているタイミングがずれるという構造的な問題があります。

具体的にどんな請求が来るのか

実際に買主から契約不適合責任を問われた場合、どのような請求が来るのでしょうか。よくある事例を見てみましょう。

雨漏り

引き渡し後に雨漏りが発覚するケースは非常に多く、トラブルの定番です。屋根や外壁の劣化が原因であることが多く、修繕費用は数十万円から、場合によっては100万円を超えることもあります。

シロアリ被害

床下のシロアリ被害は、通常の生活では気づきにくいため、引き渡し後に発覚することが少なくありません。駆除だけでなく、被害を受けた構造部材の修繕が必要となれば、費用は大きく膨らみます。

給排水管の欠陥

築年数が経過した物件では、給排水管の老朽化による水漏れが引き渡し後に顕在化するケースがあります。壁や床を開口しての工事が必要となることもあり、高額な修繕費用が発生します。

傾きや構造上の問題

建物の傾きや基礎のひび割れなどが引き渡し後に判明した場合、深刻なトラブルに発展することが少なくありません。修繕が困難なケースでは、買主から契約解除と代金返還を求められることもあります。

「知らなかった」では済まされない場面がある

売主の中には「自分が知らなかった不具合まで責任を負うのは不当だ」と感じる方もいるでしょう。しかし契約不適合責任においては、売主が不具合を知っていたかどうかは、必ずしも免責の根拠にはなりません。

もちろん、売主が善意かつ無過失であれば損害賠償責任は免れる場合があります。しかし追完請求や代金減額請求については、売主の主観的な認識とは無関係に認められ得ます。「知らなかったのだから仕方ない」という主張が通じない場面があるということです。

さらに言えば、「知らなかった」こと自体が「知ろうとしなかった」と判断されるリスクもあります。長年住んでいた家であれば、ある程度の不具合を認識していて当然と見なされる可能性も否定できません。

中古住宅特有の問題――自然劣化との境界線

契約不適合責任をめぐるトラブルで特に厄介なのが、自然劣化と瑕疵の境界線が極めて曖昧であるという点です。

築20年、30年と経過した建物であれば、外壁のひび割れも、建具の建付けの悪さも、水回りの老朽化も、ある意味で「当然の状態」です。売主としては「これは経年劣化の範囲内」と認識していても、買主が「契約内容と異なる」と主張すれば、そこに争いが生じます。

そしてこの種の争いは、白黒はっきりつけることが難しく、結果として訴訟や調停といった長期にわたる紛争に発展するリスクをはらんでいます。たとえ最終的に売主の主張が認められたとしても、その過程で費やす時間・費用・精神的なストレスは相当なものになります。

売却代金と責任の非対称性という根本問題

ここで改めて整理しておきたいのが、契約不適合責任が売主にとって本質的に不公平な構造を持っているという点です。

売主が受け取る売却代金は、売買契約の時点で確定します。一方で、負わされる可能性のある責任の範囲と金額は、引き渡し後に初めて明らかになります。しかも、その金額が売却代金を大きく上回るケースさえあり得るのです。

たとえば2,000万円で売却した築25年の物件について、引き渡し後に基礎や構造に関わる重大な不具合が発覚し、数百万円規模の補修費用を請求される――。このような事態は、決して絵空事ではありません。

受け取った金額は決まっている。しかし負わされるリスクは未知数。この非対称性こそが、売主にとって契約不適合責任が「恐怖」である最大の理由です。だからこそ、売主は契約を結ぶ前に、この責任をどう扱うかについて真剣に向き合う必要があるのです。

築年数別に考える契約不適合責任のリスク

築5年の戸建て、築15年の戸建て、築30年の戸建てが並んでいる

築年数はなぜ重要なのか

契約不適合責任を考える上で、築年数は最も重要な要素のひとつです。

建物は築年数が経過するほど劣化が進み、不具合が生じる可能性が高まります。それ自体は当然のことですが、問題は「どこまでが経年劣化の範囲内で、どこからが契約不適合にあたるのか」という境界線が、築年数によって大きく変わってくる点です。

築年数が浅い物件であれば、買主が「この状態はおかしい」と感じる不具合は比較的明確です。一方、築年数が相当程度経過した物件では、多少の劣化があることは売主・買主ともに織り込み済みのはずです。それでも契約不適合責任を無制限に負わされるとしたら、それは売主にとってあまりに理不尽と言わざるを得ません。

以下では、築年数を3つの段階に分けて、それぞれのリスクの特徴を整理します。

築10年未満――リスクは限定的だが油断は禁物

築10年未満の物件は、建物としての基本的な性能がまだ保たれている時期です。住宅の主要構造部や雨水の浸入を防ぐ部分については、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に基づく10年間の瑕疵担保責任が新築時の売主(建売業者や建築会社)に課されているため、そもそも重大な欠陥が生じにくい時期とも言えます。

この時期の売主にとっては、契約不適合責任のリスクは相対的に小さいと言えます。ただし「小さい」であって「ゼロ」ではありません。設備の故障や施工上の軽微な問題が引き渡し後に顕在化するケースはあり得ます。

また、この時期の物件では買主の期待水準も高い傾向があります。「築浅なのにこんな不具合があるのか」という心理から、クレームに発展しやすい面もあることは頭に入れておく必要があります。

築10年超――責任範囲が曖昧になる「危険ゾーン」

築10年を超えると、建物各部の劣化が本格化し始めます。外壁の塗装の劣化、屋根材の傷み、水回り設備の老朽化、建具の不具合など、点検すれば何らかの問題が見つかることも珍しくありません。

この時期から、「経年劣化の範囲内か、契約不適合にあたるか」という判断が急速に難しくなります。売主としては「この程度の劣化は当然」と思っていても、買主が「聞いていた状態と違う」と主張すれば、そこに争いが生じます。

さらに厄介なのは、この時期の物件は品確法による10年保証が切れているため、建築会社への責任転嫁ができないという点です。不具合の責任は、ほぼ全面的に売主が引き受ける構造になっています。

築10年超の物件を売却する場合は、契約不適合責任をそのまま負うことのリスクを真剣に考える必要があります。少なくとも責任期間の短縮、できれば免責特約の検討を始めるべき段階です。

築20年超――劣化は「当然の前提」。責任を負い続けることの理不尽さ

築20年を超えた物件ともなれば、建物のあちこちに何らかの劣化が生じているのは自然なことです。外壁のひび割れ、屋根の劣化、給排水管の老朽化、断熱材の劣化――これらは「欠陥」ではなく、長年使われてきた建物の「当たり前の姿」です。

そもそも、どこにも問題のない完璧な状態の住まいを求めるなら、新築を購入すればよいのです。中古住宅を選ぶということは、ある程度の劣化を受け入れることとセットであるはずです。それは買主も十分に理解した上で購入を検討しているはずであり、中古住宅の売買とはそういう取引です。

それにもかかわらず、築20年超の物件の売主が契約不適合責任を無制限に負わされるとしたら、売主は受け取った売却代金をはるかに超える負担を強いられる可能性すらあります。これは取引の公平性という観点から見ても、到底受け入れられるものではありません。

築20年を超えた物件の売却においては、契約不適合責任は原則として全面的に排除すべきです。これは売主の「わがまま」ではなく、取引の実態に即した合理的な判断です。

築年数別・契約不適合責任への対応方針まとめ

築年数 リスクの特徴 推奨される対応
築10年未満 限定的だが買主の期待水準が高い 期間の短縮を検討
築10年超 劣化が本格化し責任範囲が曖昧に 期間短縮+免責特約を積極検討
築20年超 劣化は当然の前提。責任負担が理不尽 原則として全面免責を目指す

次章では、この全面免責を実現するための具体的な手段である「免責特約」について詳しく解説します。

契約不適合責任を排除・制限する方法

営業マンに「契約不適合責任は全面的に免責でお願いします。」と申し入れる売主さん

免責特約という選択肢

契約不適合責任は、民法が定めた原則ではありますが、特約によって排除または制限することができます。これを「免責特約」と呼びます。

不動産売買は当事者間の合意によって成立する契約ですから、売主と買主が合意した上で「契約不適合責任を負わない」と定めることは、法律上認められています。特に個人が売主となる中古住宅の売買においては、この免責特約は決して珍しいものではなく、実務上広く活用されています。

免責特約には大きく分けて「全部免責」と「一部免責(期間制限を含む)」の2種類があります。

全部免責――責任をまるごと排除する

全部免責とは、契約不適合責任のすべてを排除する特約です。契約書に「売主は契約不適合責任を負わない」と明記することで、引き渡し後に買主がどのような不具合を発見しても、売主はその責任を問われません。

築20年を超えるような物件の売却においては、この全部免責を目指すべきです。前章で述べた通り、そのような物件に何らかの劣化があることは当然のことであり、売主がその責任をすべて引き受けることは合理的ではないからです。

全部免責の特約は、買主にとって一見不利に見えるかもしれません。しかしそれは価格に反映されるべき事情です。免責である分だけ価格を抑えることで、売主・買主双方にとって公平な取引が成立します。

一部免責――期間や範囲を限定して責任を制限する

全部免責が難しい場合や、築年数が比較的浅い物件の場合には、責任の範囲や期間を限定する「一部免責」という選択肢があります。

最もよく使われるのが期間制限です。「引き渡しから〇ヶ月以内に発見された契約不適合に限り責任を負う」という形で、責任を負う期間を短縮します。実務では3ヶ月とするケースが多く見られます。

また、責任を負う範囲を特定の部位に限定する方法もあります。「雨漏りと構造上の欠陥についてのみ責任を負う」といった形で、対象を絞り込むことができます。これにより、売主が予測しにくいリスクを切り離しながら、買主にも一定の安心感を提供することができます。

免責特約が無効になる例外――「知りながら告げなかった」場合

免責特約は万能ではありません。民法上、売主が知りながら買主に告げなかった事実については、免責特約があっても責任を免れることができません(民法572条)。

たとえば雨漏りがあることを売主が認識していたにもかかわらず、それを買主に伝えずに売却し、かつ契約書に免責特約を盛り込んでいたとしても、その雨漏りについては責任を問われます。免責特約は「知らなかった不具合」を対象とするものであり、「知っていて隠した不具合」には適用されないのです。

これは売主にとって非常に重要なポイントです。免責特約を有効に機能させるためには、自分が認識している不具合を誠実に開示することが前提条件となります。隠すことは免責の観点からも逆効果であり、むしろリスクを高める行為です。

宅建業者が売主の場合は免責特約が使えない

もうひとつ重要な例外があります。売主が**宅地建物取引業者(不動産会社)**である場合、買主が一般消費者であれば、宅建業法の規定により契約不適合責任を排除または大幅に制限することができません。

宅建業法第40条は、宅建業者が自ら売主となる場合に、契約不適合責任について「買主に不利となる特約を定めてはならない」と規定しています。具体的には以下のような制限があります。

責任期間の制限

責任を負う期間を「引き渡しから2年以上」とすることは認められていますが、それを下回る期間に短縮することはできません。個人間売買では3ヶ月とすることが一般的な慣行となっているのとは対照的です。

全部免責の禁止

宅建業者が売主の場合、契約不適合責任を全面的に排除する特約は無効となります。どれだけ築年数が経過した物件であっても、一定の責任を負うことが法律上求められます。

この規定が設けられている背景には、不動産取引の専門家である宅建業者と一般消費者との間の情報格差を是正するという考え方があります。専門知識を持つ業者が「免責だから一切責任を負わない」と主張することは、消費者保護の観点から認められないわけです。

この記事で想定している読者は主に個人の売主ですが、宅地建物取引業の免許を持つ業者として不動産を売却する場合には、免責特約の活用に大きな制限がかかります。自分がどの立場で売却を行うのかを事前に確認しておくことが重要です。

築年数別・免責特約の活用方針

第3章の内容と合わせて、免責特約の活用方針を整理すると以下のようになります。

築年数 推奨される免責の方向性
築10年未満 期間を3ヶ月程度に短縮することを検討
築10年超 期間短縮に加え、主要部位の免責を検討
築20年超 全部免責を原則とし、交渉の余地を最小限に

免責特約は売主の「わがまま」ではありません。築年数に応じたリスクを適切に配分するための、合理的かつ正当な手段です。ただしその効力を確実なものにするためには、次章で解説する「正確な情報開示」とセットで考えることが不可欠です。

免責特約を有効に機能させるための実務ポイント

机の上に置かれた不動産売買契約書と付帯設備表、物件状況等報告書

免責特約さえ入れれば安心、ではない

前章で解説した通り、免責特約は売主を契約不適合責任から守るための有効な手段です。しかし免責特約を契約書に盛り込みさえすれば、それで万事解決というわけにはいきません。

免責特約が実際に機能するかどうかは、売主が自分の知っている情報をどれだけ誠実に開示しているかに大きくかかっています。開示が不十分であれば、免責特約があっても責任を問われる可能性が残ります。そればかりか、「知りながら隠した」と判断されれば、免責特約そのものが無効となります。

免責特約と情報開示は、車の両輪です。どちらが欠けても、売主を守る仕組みとしては機能しません。

免責特約を確実に機能させるためにやるべきことの詳細についてはコチラ。
付帯設備表・物件状況等報告書の書き方と注意点|免責特約があっても油断禁物な理由

ホームインスペクションは売主にとって有利か?

免責特約と情報開示の話をすると、「ホームインスペクション(住宅診断)を活用すれば安心では?」と考える方もいるかもしれません。ホームインスペクションとは、建築士などの専門家が建物の状態を診断し、劣化や不具合の状況を報告するサービスです。

確かにホームインスペクションは、買主に対して「きちんと調査した上で売却している」という印象を与え、取引の透明性を高める効果があります。国土交通省もその普及を推進しており、一見すると売主にとっても有益なツールに見えます。

しかし売主の立場から冷静に考えると、ホームインスペクションには見落とせないリスクがあります。

指摘事項がすべて告知義務の対象になる

ホームインスペクションを実施すると、診断結果が報告書として残ります。そこに記載された指摘事項は、たとえ些細なものであっても、売主が「知った事実」となります。つまりその内容をすべて買主に告知する義務が生じるのです。

築年数が経過した物件を診断すれば、大小さまざまな指摘事項が複数出てくることはほぼ避けられません。外壁のひび割れ、屋根材の劣化、床下の湿気――これらは築年数相応の状態であっても、報告書に記載された瞬間に「売主が認識している不具合」となります。

価格交渉の材料を買主に渡すことになる

告知された不具合の内容は、当然ながら買主の価格交渉の根拠となります。「報告書にこれだけの指摘があるのだから、その分だけ値引きしてほしい」という交渉は、買主にとって極めて正当な主張です。売主としては、ホームインスペクションを実施することで自ら値引き交渉の材料を提供してしまうことになりかねません。

「知らなかった」という立場を失う

ホームインスペクションを実施しない場合、売主は「自分では気づかなかった不具合」について善意無過失を主張できる余地があります。しかし診断を受けた後は、報告書に記載された事項については「知らなかった」とは言えません。調査をすることで、かえって責任の範囲が広がるという逆説的な状況が生まれます。

以上の理由から、ホームインスペクションは買主の安心感を高めるツールではあっても、売主にとって必ずしも有利な選択ではありません。特に築年数が経過した物件の売却においては、慎重に判断すべきです。

売主が本当にやるべきこと

ではホームインスペクションに頼らずに、売主はどのように免責特約を有効に機能させればよいのでしょうか。答えはシンプルです。自分が認識している不具合を、自分の言葉で誠実に開示することです。

不動産売買では「告知書(物件状況確認書)」や「現況報告書」といった書類を作成するのが一般的です。これらの書類に、売主が把握している不具合や気になる点を正確に記載します。

ポイントは「知っていることをすべて書く」という姿勢です。些細に思えることでも、自分が認識しているのであれば記載しておく方が安全です。告知書に記載した事項については、売主が情報を開示したという事実が残り、後のトラブル防止につながります。

そしてこの「知っていることをすべて書く」という誠実な開示が、免責特約の効力を確かなものにします。告知書に記載した不具合については買主が承知の上で購入したことになり、記載していない事項については売主が認識していなかったことの証拠にもなります。つまり告知書は買主への情報提供の手段であると同時に、売主自身を守るための記録でもあるのです。

「現況渡し」であることを契約書に明確に記載する

免責特約と併せて、「現況渡し」である旨を契約書および重要事項説明書に明確に記載することも重要です。

現況渡しとは、物件をその時点の状態のまま引き渡すことを意味します。この記載があることで、買主は「この物件は現状のままで引き渡される」という認識を持って購入を決断したことが明確になります。引き渡し後に「こんな状態だとは思わなかった」という主張をされるリスクを減らすことができます。

価格への適切な反映

現況渡し・免責特約の条件で売却する場合、その分を価格に反映させることも重要です。

免責特約付きの物件は、買主にとってリスクを引き受ける取引です。同じ物件であれば、契約不適合責任を負う場合に比べて価格が低くなるのは自然なことであり、それは不当なことでも不公平なことでもありません。

むしろ価格に適切に反映することで、買主も納得した上で取引に臨むことができます。「安い分のリスクは自分で引き受ける」という合意が成立していれば、後のトラブルも起きにくくなります。

買主への丁寧な説明と書面での合意形成

最後に、買主への説明と合意形成についても触れておきます。

免責特約は契約書に記載するだけで効力を持ちますが、買主がその意味を十分に理解しているかどうかは別の問題です。「よく読まずにサインした」「そんな条件だとは知らなかった」という主張を後から受けないためにも、契約締結前に買主に対して免責特約の内容を丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。説明の内容は重要事項説明書にも明記しておきましょう。

免責特約を有効に機能させるための実務は、結局のところ「誠実な情報開示」と「丁寧な合意形成」に尽きます。隠すのではなく、知っていることを正直に伝えた上で免責の合意を取り付ける――この姿勢が、売主を最も確実に守ります。

それでも責任を問われた場合の対処法

買主から契約不適合責任を問われる事態となったため、あらためて売買契約書を読み返す売主さん

免責特約があっても請求が来ることはある

免責特約を契約書に盛り込み、告知書にも誠実に情報を開示した上で売却を完了した。それでも買主から「契約不適合だ」と主張されることが、現実にはあり得ます。

買主側が免責特約の存在を理解した上でなお請求してくるケースもあれば、引き渡し後に新たな問題が発覚し、感情的になって連絡してくるケースもあります。いずれにせよ、そのような事態に直面したとき、売主が冷静に対処できるかどうかが重要です。

まず落ち着いて事実を確認する

買主からクレームが入った場合、まず感情的にならずに事実関係を整理することが大切です。確認すべきポイントは以下の通りです。

主張されている不具合の内容は何か

具体的にどの部分に、どのような問題が生じているのかを把握します。口頭でのやり取りではなく、書面やメールで内容を確認するようにしましょう。

告知書に記載済みの事項か

主張されている不具合が、売却時に買主へ告知済みの事項であれば、売主はすでに情報を開示していたことになります。この場合、免責特約と合わせて売主の責任を否定できる可能性が高いです。

免責特約の対象となる不具合か

一部免責の場合は、主張されている不具合が免責の対象範囲に含まれるかどうかを契約書で確認します。期間制限を設けている場合は、不具合の発生・発見がその期間内かどうかも重要なポイントです。

売主が知りながら告げなかった事実に該当しないか

唯一免責特約が効かないのが、売主が知りながら隠していた不具合です。この点については、自分の認識と告知書の記載内容を照らし合わせて冷静に確認してください。

早めに専門家へ相談する

事実確認を終えた上で、自分だけで対応しようとせず、早めに専門家へ相談することを強くお勧めします。

仲介した不動産会社への確認

買主からのクレームは、多くの場合、仲介した不動産会社を通じて売主に伝えられます。その場合はまず担当者から詳しい状況を聞き、対応方針を一緒に検討しましょう。不動産取引のトラブルに慣れた担当者であれば、買主との交渉窓口となってサポートしてもらえます。万が一買主から直接連絡が来た場合も、すぐに仲介会社へ報告し、対応を一本化することが重要です。

弁護士への相談

請求金額が大きい場合や、買主が強硬な姿勢を崩さない場合は、早めに弁護士へ相談することが重要です。免責特約の有効性や、売主の法的な責任の有無について、専門的な見地からアドバイスを受けることができます。特に訴訟に発展しそうな気配がある場合は、相手方から連絡が来た段階で早期に相談することが得策です。

任意交渉で解決できるケースも多い

買主からのクレームがすべて訴訟に発展するわけではありません。実際には、売主が誠実に対応することで任意交渉による解決に至るケースも多くあります。

免責特約が有効であり、売主に法的な責任がない場合でも、買主の不満や不安に対して丁寧に向き合う姿勢は大切です。法的責任の有無とは別に、「誠意ある対応」が紛争の拡大を防ぐことにつながります。

一方で、責任がないにもかかわらず過度に譲歩することは禁物です。不当な要求に応じることで、さらなる請求を招くリスクがあります。専門家のアドバイスを受けながら、毅然とした姿勢で対応することが重要です。

訴訟リスクの現実的な見極め

買主が訴訟を起こすと言ってきた場合でも、実際に訴訟に至るケースは多くありません。訴訟は買主にとっても時間・費用・精神的負担を伴うものであり、請求金額が小さい場合はそのコストに見合わないと判断されることがほとんどです。

ただし請求金額が大きく、買主が弁護士を立てて交渉してきた場合は、訴訟に発展する可能性を真剣に考える必要があります。そのような場合は売主側も弁護士に依頼し、対等な立場で交渉・対応に臨むことが重要です。

いずれにせよ、最も避けるべきは「なんとなく対応してしまう」ことです。初動の対応が後の展開を大きく左右します。クレームを受けた段階で、速やかに専門家へ相談するようにしてください。

まとめ

買主からのクレームについて営業マンから一件落着したとの報告を受け、安堵の表情を見せる売主さん

売主を守るのは、正しい知識と事前の備えだけ

契約不適合責任は、不動産を売却した後も売主に重くのしかかる可能性のある制度です。売却代金は引き渡し時点で確定しているにもかかわらず、その後に発生するリスクは予測不能――この非対称性こそが、売主にとって契約不適合責任が「恐怖」である本質的な理由です。

しかしこの記事で解説してきた通り、適切な知識と事前の備えがあれば、そのリスクを大幅に軽減することができます。

この記事のポイントを振り返る

契約不適合責任は、旧制度より売主に不利になった

2020年の民法改正により、買主の権利は追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除の4つに拡大しました。売主が対応を迫られる場面は、以前より確実に増えています。

築年数が経過した物件ほど、リスクは大きくなる

築年数が増すほど劣化は進み、「経年劣化か契約不適合か」の境界線は曖昧になります。築10年超では免責特約の検討を、築20年超では原則として全面免責を目指すべきです。

免責特約は売主の正当な自衛手段

築年数に応じたリスクを適切に配分するための免責特約は、売主の「わがまま」ではなく合理的な判断です。ただし売主が知りながら隠した不具合には効力が及びません。

ホームインスペクションは売主にとって諸刃の剣

買主の安心感を高める一方で、指摘事項がすべて告知義務の対象となり、価格交渉の材料を買主に渡すことにもなりかねません。売主にとって必ずしも有利な選択ではないことを念頭に置いてください。

免責特約の効力は、誠実な情報開示があって初めて確かなものになる

知っている不具合を告知書に正確に記載し、現況渡しであることを契約書に明記した上で買主の理解を得る――この一連の対応が、免責特約を有効に機能させる前提条件です。

クレームが来たら、早めに専門家へ

免責特約があってもクレームが来ることはあります。そのような場合は感情的にならず、事実関係を整理した上で仲介会社や弁護士に早めに相談することが重要です。

「知らなかった」では済まされない時代に

不動産売買をめぐるルールは、買主保護の方向へと着実に強化されています。売主にとっては厳しい時代とも言えますが、だからこそ正しい知識を持って取引に臨むことの重要性が増しています。

築年数に応じたリスクの見極め、免責特約の活用、誠実な情報開示――これらを組み合わせることで、売主は売却後のリスクを最小限に抑えることができます。不動産の売却は、引き渡しで終わりではありません。しかし正しい備えをすれば、引き渡し後も安心して過ごすことができます。

不安な点があれば、早めに不動産会社や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

不動産売買取引結了のための手続きの詳細についてはコチラ。
不動産売却の決済・引き渡し|当日の流れと事前準備を徹底解説

執筆者:松村保誠
宅建士・1級FP技能士・マンション管理士
宅建士3200名超を指導、不動産関連著書9冊