不動産売却に境界確定は必須ではない|現実的な2つの条件と図面の種類を解説
執筆者:松村保誠(宅建士・1級FP技能士・マンション管理士)
2026年6月26日

不動産を売却する際、「境界確定はしなければいけないのか」と不安に感じる売主さんは少なくありません。
結論から言えば、境界確定は必須ではありません。不動産売買において、境界確定を義務付ける法律は存在せず、境界確定なしで売却が成立している案件は実務上も珍しくありません。
ただし、境界に関する問題を何も整理しないまま売却を進めることはリスクがあります。買主にとって「境界が不明確な土地」は不安材料になりますし、売却後にトラブルが発生した場合、売主の責任を問われる可能性も否定できません。
では、どこまで対応すれば十分なのか。この記事では、「隣地所有者との境界認識が一致している」かつ「境界を明示できる状態にある」、この2つの条件を「売却における境界対応の及第点」と位置づけ、具体的に何をすればいいかを解説します。
あわせて、売却時によく話題になる「確定測量図」「地積測量図」「現況測量図」の違いについても整理します。境界や図面に関する知識を正しく持つことで、売却の準備をより確実に進めることができます。
そもそも境界確定とは何か

境界確定の意味
土地の「境界」とは、ある土地とそれに隣接する土地との境目を示す線のことです。そして「境界確定」とは、その境界線がどこにあるかを、隣地の所有者との合意のもとで明確にする手続きを指します。
境界は本来、土地の登記が行われた時点で法的に定まっているものです。しかし、長年の間に境界標が失われたり、地形が変化したりすることで、実際にどこが境界なのかが曖昧になってしまうケースは珍しくありません。
なぜ売却時に問題になるのか
普段、境界を意識する機会はほとんどありません。自宅に住み続けている限り、隣人との間で大きなトラブルがなければ、境界がどこにあるかを厳密に把握していなくても生活に支障はないからです。
ところが、不動産を売却するとなると話は変わります。買主は「自分が購入する土地の範囲」を正確に把握したうえで購入判断を行う必要があります。境界が不明確なまま売買が成立した場合、引き渡し後に「思っていた範囲と違う」「隣地と揉めている」といった問題が表面化し、売主の責任が問われることになりかねません。
境界が不明確だと何が起こるか
境界が曖昧なまま放置されると、具体的には次のような問題につながります。
売却活動への影響としては、買主が購入後に建築や開発を予定している場合など、境界の明確化を条件として求められることがあります。ただし一般的な居住用物件の売買では、境界標があり明示できる状態であれば、大きな障害になることは多くありません。
引き渡し後のトラブルとしては、隣地所有者との間で境界の認識にズレがあった場合、塀やフェンスの位置をめぐって争いに発展することがあります。越境が発覚した場合は、建物や構造物の撤去を求められる可能性もあります。
売却価格への影響としては、境界が不明確な土地は買主にとってリスクとみなされ、価格交渉で不利になることがあります。
とはいえ、これらの問題はすべての物件で発生するわけではありません。次の章では、境界確定が「必須ではない」理由と、その現実的な背景について解説します。
境界確定は必ずしも必要ではない

境界確定を義務付ける法律は存在しない
不動産売買において、売主に境界確定を義務付ける法律は存在しません。宅地建物取引業法においても、境界確定を売却の条件とする規定はなく、境界が未確定のまま売買契約を締結すること自体は法律上問題ありません。
「不動産を売るなら境界確定が必要」というのは、ネット上で見かける情報の一つですが、法的な根拠はなく、実務の実態とも一致しません。
現実的な難しさ
境界確定が「理想ではあるが、必ずしも固執する必要はない」と言える背景には、現実的な難しさがあります。
隣地所有者の協力が得られないケースは珍しくありません。境界確定は売主だけで完結する手続きではなく、隣接するすべての土地の所有者の立会いと合意が必要です。隣地所有者が多忙であったり、そもそも協力的でなかったりした場合、手続きが前に進みません。
隣地所有者が不明・不在のケースも増えています。相続登記が未了のまま放置されている土地や、所有者が海外在住・連絡不能といったケースでは、合意形成自体が困難です。
費用と時間がかかるという現実もあります。確定測量を土地家屋調査士に依頼した場合、費用は一般的に数十万円規模になります。また、隣地所有者との日程調整や官民境界(道路との境界)の確認手続きなどを含めると、完了までに数ヶ月を要することも珍しくありません。売却のスケジュールが決まっている場合、現実的に間に合わないケースもあります。
境界確定なしでも売却は成立する
以上の理由から、実務上は境界確定を行わずに売却が成立している案件は多数存在します。重要なのは「境界確定をしたかどうか」ではなく、「境界に関するリスクをどこまで整理できているか」です。
次の章では、境界確定の代わりに何を整えればよいか、現実的な「及第点」の考え方を解説します。
売却で「及第点」となる2つの条件

境界確定が難しい場合でも、次の2つの条件を満たすことができれば、売却における境界対応として十分と考えられます。
条件① 隣地所有者との境界認識が一致している
1つ目の条件は、隣地所有者との間で「境界がどこにあるか」について認識が一致していることです。
境界をめぐるトラブルの本質は、境界確定の有無ではなく、隣地所有者との間に認識のズレがあることです。逆に言えば、お互いの認識が一致していれば、正式な確定手続きを経ていなくても、実態としてのリスクは大きくありません。
確認の方法は、必ずしも書面でなくても構いません。日常的な会話の中で「あの塀が境界ですよね」といった形で互いに認識が一致しているのであれば、それで足りるケースがほとんどです。ただし、売却後のトラブルを防ぐという意味では、境界確認書や覚書といった簡単な書面を取り交わしておくと、より安心です。
隣地所有者が複数いる場合は、それぞれとの認識を確認しておく必要があります。特に、過去に境界について話し合ったことがない隣地がある場合は、売却前に一度確認しておくことをお勧めします。
条件② 境界を明示できる状態にある
2つ目の条件は、実際に現地で境界の位置を示すことができる状態にあることです。
買主に対して「ここが境界です」と説明できる根拠として、最もわかりやすいのが境界標の存在です。境界標とは、境界点を地上で示すために設置された標識で、コンクリート杭・金属鋲・プラスチック杭などがあります。現地に境界標が残っていれば、境界の位置を視覚的に示すことができます。
境界標が存在しない場合は、土地家屋調査士に依頼して境界標を設置することが有効です。確定測量ほどの費用と時間はかかりませんが、隣地所有者との認識が一致していることが前提になります。
また、境界標がなくても、ブロック塀やフェンスの中心・内側・外側のいずれが境界かについて隣地所有者との認識が一致しており、それを買主に明示できるのであれば、実務上は対応できているとみなされるケースも多いです。
2つの条件を満たせば買主のリスクは限定的
「隣地所有者との認識の一致」と「境界の明示」、この2つが揃っていれば、買主が購入後に境界をめぐるトラブルに巻き込まれるリスクは大きく低下します。正式な境界確定を経ていなくても、買主にとって必要な情報と安心感は十分に提供できると考えてよいでしょう。
図面の種類と違い

売却の準備を進めていると、「確定測量図」「地積測量図」「現況測量図」といった図面の名前が出てくることがあります。それぞれ性格が異なるため、違いを整理しておきます。
確定測量図
確定測量図は、隣接するすべての土地の所有者および道路管理者の立会いと承認を得たうえで作成される図面です。境界について関係者全員の合意が取れていることが前提となるため、3種類の中で最も信頼性が高い図面です。
土地家屋調査士が測量を行い、関係者全員が署名・押印した境界確認書とセットで保管されるのが一般的です。この図面があれば、境界に関する説明資料として申し分ありません。
ただし前述のとおり、作成には費用・時間・関係者全員の協力が必要であり、売却のタイミングで必ずしも用意できるとは限りません。
地積測量図
地積測量図は、土地の登記申請の際に法務局へ提出される図面で、法務局で取得することができます。分筆登記や地積更正登記などの際に作成されるもので、土地の面積や形状が記載されています。
ただし、作成された時期によって精度に大きな差があります。1970年代以前に作成されたものは測量技術の限界から精度が低く、現地の実態と一致しない場合があります。一方、比較的新しいものであれば信頼性は高くなります。手元にある場合は、いつ作成されたものかを確認しておくとよいでしょう。
また、地積測量図はあくまで登記手続きのために作成された図面であり、隣地所有者との境界合意を直接証明するものではない点に注意が必要です。
現況測量図
現況測量図は、隣地所有者の立会いや承認を得ずに、現地の状況をそのまま測量して作成する図面です。作成が比較的容易で費用も抑えられますが、境界について関係者の合意を得たものではないため、あくまで参考資料としての位置づけになります。
売却時に現況測量図しかない場合でも、それ自体が問題になるわけではありませんが、「この図面で境界が確定している」という説明はできない点を理解しておく必要があります。
どの図面があれば安心か
3つの図面を信頼性の観点で並べると、「確定測量図 > 地積測量図(新しいもの)> 現況測量図」という順になります。
ただし、図面の有無や種類だけで境界対応の十分性が決まるわけではありません。第3章で述べた「隣地所有者との認識の一致」と「境界の明示」が揃っていることが前提であり、図面はそれを補強する資料と位置づけるのが適切です。
それでも境界確定をしたほうがいいケース

境界確定は必須ではありませんが、状況によっては積極的に取り組んだほうがよいケースがあります。以下に該当する場合は、土地家屋調査士への相談を検討してください。
土地の面積が売買価格に直結する場合
売買契約には、土地の面積を確定させたうえで価格を決める「実測売買」と、登記簿上の面積をもとに価格を決める「公簿売買」の2種類があります。
実測売買を採用する場合、実測面積と登記簿面積に差異があれば売買価格の精算が行われます。この場合、境界を確定させたうえで正確な面積を測量する必要があるため、確定測量が実質的に必要となります。
土地の単価が高いエリアや、面積の大きな土地の売却では、わずかな面積の差が価格に大きく影響するため、実測売買が選択されるケースがあります。
隣地との境界について認識のズレがある場合
隣地所有者との間で、境界の位置について認識が一致していない場合や、過去にトラブルがあった場合は、境界確定に取り組むことが望ましいです。
認識のズレを放置したまま売却すると、買主が引き渡し後に隣地所有者との境界紛争に巻き込まれるリスクがあります。売主としての契約不適合責任を問われる可能性もあるため、売却前に解消しておくことが重要です。
越境が疑われる場合
建物の一部・ブロック塀・屋根の庇などが隣地に越境している、あるいは逆に隣地の構造物がこちらの土地に越境している可能性がある場合も、境界確定を行って実態を把握しておくことが重要です。
越境が確認された場合は、隣地所有者との間で「越境の事実を確認し、将来的に解消する」旨を定めた越境に関する覚書を締結しておくことで、売却を円滑に進めることができます。
相続した土地で境界が全く不明な場合
相続によって取得した土地の中には、過去に一度も測量が行われておらず、境界標も存在せず、隣地所有者との確認もされていないケースがあります。
このような場合、第3章で述べた「及第点」の条件を満たすことが難しく、境界確定から着手せざるを得ない状況になることがあります。特に、長期間管理されていなかった土地や、山林・農地などの場合は早めに専門家に相談することをお勧めします。
まとめ

この記事では、不動産売却における境界対応について解説してきました。最後に要点を整理します。
境界確定は必須ではない
不動産売買において、境界確定を義務付ける法律は存在しません。隣地所有者の協力が得られないケースや、費用・時間の制約から、境界確定を行わずに売却が成立している案件は実務上も多数あります。「境界確定をしなければ売れない」という情報に惑わされる必要はありません。
現実的な及第点は2つの条件
境界確定が難しい場合でも、以下の2つの条件を満たすことができれば、売却における境界対応として十分と考えられます。
- 隣地所有者との境界認識が一致している
- 境界を現地で明示できる状態にある
この2つが揃っていれば、買主が購入後に境界をめぐるトラブルに巻き込まれるリスクは大きく低下します。
図面は補強資料として活用する
確定測量図・地積測量図・現況測量図は、それぞれ性格と信頼性が異なります。手元にある図面の種類と作成時期を確認し、境界説明の補強資料として活用しましょう。図面があること自体が買主の安心感につながります。
状況によっては境界確定が必要なケースもある
実測売買を採用する場合、隣地との境界認識にズレがある場合、越境が疑われる場合、相続した土地で境界が全く不明な場合は、境界確定に積極的に取り組むことが望ましいです。該当する場合は、土地家屋調査士に早めに相談することをお勧めします。
不安な場合は専門家へ
境界に関する問題は、物件の状況によって対応が異なります。「自分のケースがどれに当たるかわからない」という場合は、土地家屋調査士や不動産会社に相談することで、必要な対応を具体的に判断することができます。
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