リースバックは本当にお得か?仕組み・デメリット・向いている人を不動産のプロが解説
執筆者:松村保誠(宅建士・1級FP技能士・マンション管理士)
2026年6月26日

自宅を売却しなければならない事情を抱えながら、「それでも、この家を離れたくない」と思っている方に向けて、この記事を書いています。
リースバックは、自宅を売却した後もそのまま賃貸として住み続けられる仕組みです。「売却資金を手にしながら、引っ越しをしなくて済む」という点が注目され、近年利用者が増えています。
ただし、はっきりと伝えておきたいことがあります。
リースバックは、経済的な損得で判断するならば、ほぼ確実にマイナスになる選択肢です。売却価格は市場価格より低く抑えられ、その後に払い続ける家賃は周辺相場より高くなる傾向があります。通常の売却と比べて、トータルの手残りは大きく減ります。
それでも、この制度には意味があります。
「お金は減ってもいい。この家で最期まで暮らしたい」——そう覚悟を決めた人にとって、リースバックは現実的な選択肢になり得ます。
一方で、相続人がいて、できるだけ多くの財産を残したいと考えている方には、リースバックはおすすめできません。経済的な合理性を少しでも重視するなら、他の方法を検討すべきです。
この記事では、リースバックの仕組みと経済的な実態、リスク、そして「本当に向いている人・向いていない人」を、不動産業界で20年以上実務に携わってきた経験をもとに、率直にお伝えします。
リースバックとは何か

リースバックとは、自宅をリースバック会社や投資家に売却し、その後は買主との間で賃貸借契約を結んで同じ家に住み続ける仕組みです。「売却」と「賃貸入居」が同時に成立する点が、通常の不動産取引とは大きく異なります。
取引の構造はシンプルです。売主(元の所有者)は不動産を売ることで資金を得て、買主(リースバック会社等)はその不動産を賃貸物件として運用します。売却後、元の所有者は「賃借人」として毎月家賃を支払いながら、これまでと変わらない生活を続けます。
通常の売却との最大の違いは、「引っ越しが不要」という点です。売却後も近隣との関係が変わらず、子どもの学区や通院先を変える必要もありません。生活環境をそのまま維持できることが、リースバックが選ばれる主な理由です。
なお、リースバックを提供するのは、専業のリースバック会社のほか、不動産投資会社、あるいは個人投資家の場合もあります。買主が誰になるかによって、その後の賃貸借契約の条件や更新の対応が異なってくるため、売却先がどのような事業者かは重要な確認事項になります。
リースバックの基本的な流れ

リースバックの取引は、大きく「売買」と「賃貸借契約の締結」の2段階で構成されます。
① 相談・査定
まずリースバック会社に相談し、物件の査定を受けます。この段階で提示されるのは「売却価格」と「売却後の月額家賃」の2つです。この2つはセットで確認する必要があります。売却価格が高く見えても、その後の家賃が高ければトータルでは不利になるからです。
② 売買契約の締結
査定条件に合意すれば、通常の不動産売買と同様に売買契約を締結します。ただし、買主はリースバック会社等であるため、仲介業者を介さない直接取引になるのが一般的です。
③ 賃貸借契約の締結
売買契約と同時、またはほぼ同タイミングで賃貸借契約を締結します。この契約が「普通借家契約」か「定期借家契約」かは、後の生活に大きく影響します。詳しくは後述します。
④ 決済・引き渡し(実質的な継続居住)
売買の決済が完了すると、所有権は買主に移転します。ただし実態としては引っ越しをするわけではなく、その日から「賃借人」として同じ家に住み続けます。手元には売却代金が入り、翌月から家賃の支払いが始まります。
リースバックの経済的な実態

リースバックを検討する前に、経済的な実態をしっかり把握しておく必要があります。結論から言えば、リースバックは通常の売却と比べて、経済的には必ず不利になります。
売却価格は市場価格より低くなる
リースバックでの売却価格は、一般的に市場価格の60〜80%程度になります。これはリースバック会社が賃貸運用や転売を前提とした投資として物件を購入するためです。同じ物件を仲介で売れば、より高い価格で売れる可能性が高いということです。
家賃は周辺相場より高くなる
売却後に支払う家賃は、周辺の賃貸相場より高めに設定されるのが通常です。「安く買って、高い家賃を取る」という構造は、リースバックビジネスの基本です。
トータルで見た経済的損失
売却価格が低い上に、その後も割高な家賃を払い続けることになります。仮に10年、20年と住み続けた場合、通常の売却と比べた経済的な損失は相当な金額になります。
リースバックを選ぶということは、「住み続ける権利」にそれだけのコストを支払うという選択です。この現実を理解した上で判断することが、後悔しないための第一条件です。
リースバックの主なリスク・注意点

経済的な不利に加えて、リースバックには「住み続けられるかどうか」に直結するリスクがいくつかあります。契約前に必ず把握しておくべき点です。
定期借家契約が多く、更新が保証されない
リースバックの賃貸借契約は、「定期借家契約」で締結されるケースが大半です。定期借家契約は契約期間が満了すると原則として契約が終了し、貸主が更新を拒否することができます。「住み続けられると思っていたのに、契約期間満了で退去を求められた」というトラブルは実際に起きています。
普通借家契約であれば貸主側の更新拒否は難しいのですが、リースバックで普通借家契約を結んでくれる会社は多くありません。契約の種類は必ず事前に確認してください。
買主が物件を転売するリスク
リースバック会社が物件を第三者に転売することがあります。新しい買主が賃貸経営を継続してくれるとは限らず、転売を機に退去を求められるケースもあります。売却先がどのような方針で物件を運用・保有するのかは、事前に確認しておきたい点です。
家賃が払えなくなれば退去を求められる
毎月の家賃を支払えなくなれば、賃借人として退去を求められます。売却資金を生活費に充てながら家賃も払い続けるという資金計画が成り立つかどうか、冷静に試算しておく必要があります。
買戻し条件は現実的でないことが多い
リースバックには「将来買い戻せる」という説明がされることがありますが、買戻し価格は売却価格より高く設定されるのが一般的です。一度資金難に陥った状況から買い戻しに必要な資金を用意することは、現実的には非常に難しいと言わざるを得ません。買戻しを前提にリースバックを選ぶのは、慎重に考えるべきです。
リースバックが向いている人・向いていない人

リースバックは、すべての人に勧められる制度ではありません。向いている人と向いていない人の違いを、はっきりお伝えします。
向いている人
リースバックが現実的な選択肢になり得るのは、次の条件が重なっている人です。
まず、今すぐまとまった資金が必要で、自宅を売却する以外に方法がない状況であること。そして、経済的な損失を承知の上で、それでもこの家で最期まで暮らしたいという強い意思があること。この2つが揃っている場合に限り、リースバックは意味を持ちます。
言い換えれば、「お金よりも、この家での生活を選ぶ」という覚悟が前提です。その覚悟がある人にとっては、リースバックは単なる損な取引ではなく、生活の継続を守るための手段になります。
向いていない人
一方、以下に当てはまる方にはリースバックはおすすめできません。
相続人がいて、できるだけ多くの財産を残したいと考えている方は、リースバックを選ぶべきではありません。売却価格は低く抑えられ、その後も割高な家賃を払い続けることになるため、最終的に相続人に残せる財産は通常の売却と比べて大幅に少なくなります。
また、「とりあえず住み続けられればいい」という程度の気持ちで検討している方も慎重になるべきです。リースバックのコストは決して小さくありません。引っ越し先を探す手間を省くためだけに選ぶには、あまりにも代償が大きすぎます。
経済的な合理性を少しでも重視するなら、通常の売却を選び、その資金で新たな住まいを確保する方が賢明です。
リースバック以外の選択肢との比較

「自宅を売却しなければならない」という状況でも、リースバック以外にいくつかの選択肢があります。自分の状況に合った方法を選ぶために、それぞれの特徴を整理しておきます。
通常の売却(仲介)との比較
最も基本的な選択肢です。仲介業者を通じて市場価格に近い金額で売却できるため、手元に残る資金はリースバックより多くなります。売却後は新たな住まいを確保する必要がありますが、その資金も含めてトータルで考えれば、経済的にはリースバックより有利になるケースがほとんどです。「住み続けること」にこだわらないのであれば、まず検討すべき方法です。
買取と仲介の詳細についてはコチラ。
不動産売却「買取」と「仲介」の違いを徹底解説|どちらを選ぶべきか判断基準まで
リバースモーゲージとの比較
リバースモーゲージは、自宅を担保に金融機関から融資を受け、死亡時に不動産を売却して返済する仕組みです。存命中は自宅の所有権を維持したまま資金を得られる点が、リースバックとの大きな違いです。ただし、利用できるのは原則として一定年齢以上の方に限られ、対象物件や融資条件にも制約があります。また、相続人への財産継承はリースバックと同様に難しくなります。
任意売却との比較
住宅ローンの返済が困難になった場合の選択肢です。金融機関の同意を得た上で、競売によらず市場に近い価格で売却する方法で、競売と比べて売却価格が高くなる傾向があります。リースバックと組み合わせて提案されることもありますが、その場合も売却価格・家賃の条件はリースバック単独の場合と同様の問題が生じます。ローン滞納が背景にある場合は、まず金融機関や不動産の専門家に相談することが先決です。
任意売却の詳細についてはコチラ。
任意売却とは|競売との違い・流れ・悪質業者の見極め方まで徹底解説
利用する前に確認すべきポイント

リースバックを利用すると決めた場合、契約前に必ず確認しておくべき項目があります。後から「知らなかった」では取り返しがつかないため、一つひとつ丁寧に確認してください。
賃貸借契約の種類
最初に確認すべきは、賃貸借契約が「普通借家契約」か「定期借家契約」かという点です。定期借家契約の場合、契約期間が満了すれば貸主の判断で退去を求められる可能性があります。できる限り普通借家契約を結べる会社を選ぶことが望ましいですが、対応している会社は限られます。
契約期間と更新条件
定期借家契約の場合、契約期間は何年か、期間満了後の再契約はどのような条件で可能かを必ず確認してください。「再契約できる」と口頭で説明されても、契約書に明記されていなければ保証にはなりません。必ず書面で確認することが必要です。
家賃の水準と改定条項
現在の家賃だけでなく、将来の家賃改定についても確認が必要です。契約期間中に家賃が値上げされる条件が盛り込まれていないか、契約書を慎重に確認してください。
買戻し条件の有無と価格
将来の買戻しを希望する場合は、買戻し価格・買戻し可能期間・条件を事前に書面で確認してください。口頭だけの説明を信じてはいけません。ただし、前述の通り、買戻しを前提にリースバックを選ぶことは現実的ではないケースがほとんどです。
売却先の事業者の信頼性
リースバック会社が物件を長期保有するつもりがあるのか、あるいは転売を前提としているのかによって、住み続けられる期間が大きく変わります。事業者の規模・実績・保有方針について、事前にできる限り確認しておくことが重要です。
まとめ

リースバックは、経済的に追い詰められた状況の中で、それでも「この家で最期まで暮らしたい」という強い意思を持つ人のための制度です。
経済的な損得で判断するならば、リースバックはほぼ確実にマイナスの選択です。売却価格は市場価格より低く、その後に払い続ける家賃は周辺相場より高い。さらに、定期借家契約であれば住み続けられる保証すらありません。この現実から目を背けたまま契約することだけは、避けてください。
それでもリースバックを選ぶ意味があるとすれば、それは「住み続ける権利」に対して対価を支払う、という覚悟が固まっているときだけです。
相続人がいて、できるだけ多くの財産を残したいと考えている方には、改めてはっきりお伝えします。リースバックはその目的に反します。通常の売却など、他の方法を検討してください。
自宅の売却は、人生の中でも大きな決断です。リースバックを含め、どの選択肢が自分の状況に本当に合っているのかを、焦らず冷静に判断することが何より大切です。不動産会社や金融機関の説明を鵜呑みにせず、必要であれば中立的な立場の専門家にも相談することをお勧めします。
執筆者:松村保誠
宅建士・1級FP技能士・マンション管理士
宅建士3200名超を指導、不動産関連著書9冊


