不動産売却「買取」と「仲介」の違いを徹底解説|どちらを選ぶべきか判断基準まで
執筆者:松村保誠(宅建士・1級FP技能士・マンション管理士)
2026年6月26日

不動産を売ろうと思ったとき、最初にぶつかる壁が「買取と仲介、どちらで売ればいいのか」という疑問ではないでしょうか。
不動産会社から「買取という方法もありますよ」と勧められたり、インターネットで「買取は手間がかからない」「仲介手数料が不要だからお得」という情報を目にしたりして、買取に魅力を感じている方もいるかもしれません。
しかし、現場の実態はそのイメージとは大きく異なります。
特別な事情がある物件を除けば、仲介のほうが圧倒的に良い結果になるケースがほとんどです。買取を選んだことで、仲介で売った場合と比べて1,000万円以上も手取りが少なくなってしまった売主がいるのも事実です。「仲介手数料が不要」「すぐに売れる」というメリットを差し引いても、到底埋められない差が生じることがあります。
もちろん、相続・離婚・転勤など急いで売却しなければならない事情がある場合や、老朽化が著しく一般の買主がなかなか手を出せないような物件の場合には、買取が合理的な選択肢になることもあります。大切なのは、買取と仲介それぞれの仕組みを正しく理解したうえで、自分の状況に本当に合った方法を選ぶことです。
この記事では、以下の内容を順番に解説します。
- 仲介・買取それぞれの仕組みと売却の流れ
- 売却価格・期間・費用・確実性など5つの軸での比較
- 買取・仲介それぞれが向いている具体的なケース
- 「買取保証」という第三の選択肢
- 売却で失敗しないための鉄則と、自分に合う方法の判断フロー
不動産の売却は、多くの方にとって人生で何度もある経験ではありません。だからこそ、方法選びを間違えると数百万〜1,000万円以上の損失につながるリスクがあります。この記事を読み終えたとき、「自分はどちらで売るべきか」という問いに、根拠を持って答えられるようになることを目指しています。
1. 不動産売却の前に知っておきたい「2つの売り方」

不動産を売却する方法は、大きく**「仲介」と「買取」の2つ**に分けられます。どちらも不動産会社が関わる点は同じですが、不動産会社が果たす役割がまったく異なります。
仲介は、不動産会社が売主と買主の間に立ち、売買を成立させるサポートをする方法です。買主はあくまで一般の個人や法人であり、不動産会社はその橋渡し役を担います。
買取は、不動産会社自身が買主となり、直接物件を購入する方法です。市場に出回ることなく、売主と不動産会社の間だけで売買が完結します。
一見すると小さな違いのように思えますが、この「誰が買主になるか」という点が、売却価格・売却期間・手間・確実性のすべてに影響を与えます。下の表で全体像を確認してみましょう。
| 仲介 | 買取 | |
| 買主 | 一般の個人・法人 | 不動産会社 |
| 売却価格 | 市場価格に近い | 市場価格の60〜80%程度 |
| 売却期間 | 3〜6ヶ月が目安 | 最短数日〜1ヶ月程度 |
| 仲介手数料 | 必要 | 原則不要 |
| 売却の確実性 | 買主が見つからないと売れない | 会社が買うので確実 |
| 内覧対応 | 必要 | 不要 |
この表を見ると、買取には「スピード」「手間のなさ」「確実性」といった魅力的な特徴があることは確かです。しかし、特別な事情がない限り、不動産売却の基本は仲介です。 現場の実態を見ると、よほど特殊な物件でない限り、仲介のほうが圧倒的に良い結果になるケースがほとんどだからです。
買取には「仲介手数料が不要」「手間がかからない」というメリットがある一方で、売却価格が市場価格を大きく下回ります。仲介手数料の節約分を差し引いても、仲介で売った場合と比べて数百万円、場合によっては1,000万円以上も手取りが少なくなるケースがあります。「手軽だから」「すぐに売れるから」という理由だけで買取を選ぶことは、売主にとって大きなリスクになりえます。
では、買取が選択肢に入るのはどのような場合でしょうか。相続・離婚・転勤など急いで売却しなければならない特別な事情がある場合や、老朽化が著しく一般の買主がなかなか手を出せないような物件の場合には、買取が現実的な選択肢になることもあります。ただしそれはあくまで例外であり、多くの売主にとって仲介が出発点となるべき方法です。
次のセクションから、仲介と買取それぞれの仕組みと流れを詳しく見ていきます。まずは不動産売却の基本である仲介から確認しましょう。
2. 仲介売却とは?仕組みと流れを解説

2-1. 仲介の基本的な仕組み
仲介売却とは、不動産会社に売主と買主の橋渡し役を依頼する売却方法です。そして、特別な事情がない限り、不動産売却において最も基本となる方法がこの仲介です。
不動産会社はSUUMOやHOME’Sといったポータルサイトへの掲載、チラシの配布、購入希望者への物件紹介などの販売活動を行い、買主を探します。売買契約は売主と買主(一般の個人や法人)の間で結ばれ、不動産会社は取引が成立したときに「仲介手数料」を受け取る形で報酬を得ます。
仲介が不動産売却の基本とされる理由はシンプルです。一般の個人が買主となるため、市場価格に近い金額での売却が期待できるからです。不動産は多くの方にとって人生最大級の資産です。その資産を売却するにあたって、まず仲介を検討することは、売主にとって当然の出発点といえます。
なお、不動産会社にとっても「売れなければ収入ゼロ」という構造になっています。この点が、仲介における不動産会社のインセンティブや動き方に大きく影響しています。
2-2. 仲介売却の流れ
仲介売却は、査定から引渡しまで一般的に以下のステップで進みます。
① 査定依頼
まず不動産会社に査定を依頼します。査定には「机上査定」と「訪問査定」の2種類があります。机上査定は物件情報をもとに概算を出すもので、複数社の相場感を比較するのに向いています。訪問査定は担当者が実際に物件を見て算出するため、より精度が高くなります。本格的に売却を進める場合は、訪問査定を受けることをおすすめします。
査定は複数社に依頼することが鉄則です。1社だけでは価格の妥当性が判断できず、適正な相場感をつかむことができません。最低でも3社以上に査定を依頼し、価格や担当者の対応を比較したうえで媒介契約を結ぶ会社を選びましょう。
なお、査定額はあくまで「この価格なら売れる可能性が高い」という目安であり、実際の売却価格を保証するものではありません。
② 媒介契約の締結
不動産会社を選んだら、「媒介契約」を結びます。媒介契約には以下の3種類があり、それぞれ条件が異なります。
| 契約の種類 | 他社への依頼 | 自己発見取引 | 活動報告義務 | レインズ登録義務 |
| 専属専任媒介 | 不可 | 不可 | 1週間に1回以上 | 5営業日以内 |
| 専任媒介 | 不可 | 可 | 2週間に1回以上 | 7営業日以内 |
| 一般媒介 | 可 | 可 | 義務なし | 義務なし |
「専属専任」「専任」は1社に絞る分、不動産会社が積極的に動いてくれやすいというメリットがあります。一方「一般媒介」は複数社に依頼できますが、各社の販売意欲が下がりやすいという側面もあります。どの契約形態を選ぶかは、物件の状況や売却戦略によって変わります。
また、「レインズ(REINS)」とは国土交通大臣が指定する不動産流通機構が運営するネットワークシステムで、全国の不動産会社が物件情報を共有する仕組みです。レインズに登録されることで、より多くの不動産会社・買主の目に触れやすくなります。
③ 販売活動
媒介契約を結んだあと、不動産会社が販売活動を開始します。主な活動内容は以下の通りです。
- SUUMOやHOME’Sなどのポータルサイトへの掲載
- レインズへの物件登録
- 折込チラシやポスティングによる周知
- 購入希望者への物件紹介・内覧の調整
この期間中、売主には内覧対応が求められます。購入希望者が実際に物件を訪問して確認する内覧は、成約に向けた重要なステップです。居住中の物件では部屋を清潔に保っておく必要があるなど一定の手間が生じますが、これは市場価格に近い金額で売却するための大切なプロセスと捉えてください。内覧対応を丁寧に行うことが、良い買主との出会いにつながります。
④ 売買契約の締結
買主が見つかり、価格・条件の交渉がまとまったら、売買契約を締結します。このとき、売主は物件に関する重要事項(雨漏りの有無、設備の不具合など)を買主に説明する義務(告知義務)があります。隠れた瑕疵(欠陥)が後から発覚すると、契約不適合責任を問われるリスクがあるため、正確な情報開示が重要です。
⑤ 引渡し・決済
売買契約から通常1〜2ヶ月後に、残代金の受け取りと物件の引渡しが行われます。この時点で所有権移転登記の手続きも完了し、売却が正式に完結します。
2-3. 仲介手数料の計算方法
仲介売却では、売買が成立した際に不動産会社へ仲介手数料を支払います。仲介手数料には法律で定められた上限があり、計算式は以下の通りです。
売却価格×3%+6万円+消費税(税率10%) ※売却価格が400万円超の場合
たとえば、3,000万円で売却できた場合の仲介手数料の上限は以下のようになります。
3,000万円 × 3% + 6万円 = 96万円 → 消費税込みで 105.6万円
決して小さくない金額ですが、この手数料は「成約時」にのみ発生するものです。売れなかった場合は原則として請求されません。また、買取と比較した場合、仲介手数料を支払ってもなお、仲介のほうが手取り額が大きくなるケースがほとんどです。仲介手数料はあくまで「市場価格での売却を実現するためのコスト」と捉えることが大切です。
2-4. 仲介売却にかかる期間の目安
仲介売却の売却期間は、一般的に3〜6ヶ月が目安とされています。買取と比べると時間がかかりますが、この時間は「より高く売るための時間」でもあります。
もちろん、物件の立地・状態・価格設定・市況によって大きく異なります。適切な価格設定と信頼できる不動産会社選びが、売却期間を短縮するうえでも重要なポイントです。焦って価格を下げることなく、余裕を持ったスケジュールで臨むことが、仲介売却を成功させる基本姿勢といえます。
仲介売却の仕組みと流れはご理解いただけたでしょうか。次のセクションでは、買取の仕組みと流れを解説します。仲介と何がどう違うのか、特にその価格差の実態についてしっかり確認しておきましょう。
3. 買取とは?仕組みと流れを解説

3-1. 買取の基本的な仕組み
買取とは、不動産会社が直接買主となり、売主から物件を購入する売却方法です。仲介のように買主を探す必要がなく、売主と不動産会社の間だけで売買が完結します。
不動産会社は買い取った物件をリフォーム・リノベーションしたうえで一般市場で再販することで利益を得ます。そのため、売主側に仲介手数料は発生しません。
買取には大きく分けて**「即時買取」と「買取保証」**の2種類があります。
- 即時買取:査定後すぐに不動産会社が買い取る方法。
- 買取保証:まず一定期間仲介で売却を試み、売れなかった場合に事前に決めた価格で買い取る方法。
買取保証については後のセクションで詳しく解説します。ここではまず、即時買取の仕組みと流れを中心に説明します。
3-2. 買取の流れ
① 買取査定の依頼
不動産会社に買取査定を依頼します。買取査定では、不動産会社が「再販したときにいくらで売れるか」「リフォームにどれくらいかかるか」といった観点から価格を算出するため、仲介査定の額より大幅に低くなるのが一般的です。
② 査定額の提示・条件交渉
査定が完了すると、不動産会社から買取価格が提示されます。仲介と異なり、提示された金額は不動産会社が責任を持って出す「確定額」であるため、合意後に価格が変わることはありません。
③ 売買契約の締結
価格・条件に合意できたら売買契約を締結します。買取では現状渡しが基本のため、雨漏りや設備の不具合があってもそのままの状態で引き渡せるケースがほとんどです。
④ 引渡し・決済
契約後、最短数日〜1ヶ月程度で引渡しと決済が完了します。売却代金は一括で振り込まれます。
3-3. なぜ買取価格は大幅に安くなるのか――「仲介より得」は本当か?
買取の仕組みを理解するうえで最も重要なのが、買取価格がなぜ安くなるのかという点です。
不動産会社が買取価格を低く設定する理由は主に3つあります。
① リフォーム・リノベーションコスト
買い取った物件をそのまま転売するのではなく、リフォームを施してから再販するため、そのコストをあらかじめ差し引いた価格が提示されます。
② 転売リスクの負担
買い取った物件がすぐに売れるとは限りません。売れるまでの維持管理費や、市況変化による値下がりリスクを会社が負う分、買取価格に反映されます。
③ 不動産会社の利益(転売益)
買取→リフォーム→再販というビジネスモデルで利益を確保するため、買取価格には会社の利益分も織り込まれています。
これらの要因が重なり、買取価格は一般的に市場価格の60〜80%程度が目安とされています。しかし現場の実態を見ると、この数字が示す以上に深刻なケースが少なくありません。
買取で1,000万円以上損するケースも
「仲介手数料がかからないから実質的な差は小さい」という説明を見かけることがありますが、これは必ずしも実態を正確に反映していません。よほど特殊な事情がある物件を除けば、仲介のほうが圧倒的に良い結果になるケースがほとんどです。
ひどい場合には、買取を選んだことで仲介と比べて1,000万円以上も手取りが少なくなってしまった売主もいるほどです。「仲介手数料を払いたくないから買取にする」という判断は、結果的に大きな損失につながるリスクがあることをしっかり認識しておきましょう。
買取が合理的な選択になる場面は限られる
もちろん、買取が適している状況がまったくないわけではありません。相続や離婚など急いで売却しなければならない事情がある場合や、ものすごく古い・ボロボロで一般の方がなかなか手を出せないような物件の場合には、買取が現実的な選択肢になることもあります。
しかし、そのような特別な事情がない限り、売主にとっては仲介を選ぶことが基本です。「買取は手軽で損がない」というイメージに引きずられて安易に買取を選ぶと、本来得られたはずの売却益を大きく失うリスクがあることをしっかり認識しておいてください。
4. 買取と仲介を5つの軸で徹底比較

仲介と買取の仕組みを理解したところで、ここでは5つの軸で両者を詳しく比較していきます。表面上のスペックだけでなく、現場の実態を踏まえた比較を心がけました。先に結論をお伝えすると、特別な事情がない限り仲介が有利である理由が、この比較を通じてより明確になるはずです。
一つ考えてみてください。日々の生活の中でスーパーの特売を活用したり、電気をこまめに消したり、10円単位の節約を積み重ねている方は多いはずです。しかし不動産売却の場面だけで急に気が大きくなり、「手軽だから」「すぐ売れるから」という理由で買取を選び、数百万円、場合によっては1,000万円以上の損失を平然と受け入れてしまう――これは明らかにおかしな話です。日常の節約意識を、人生最大級の資産を売却する場面でこそ発揮してください。
まず全体像を表で確認したあと、各軸について詳しく解説します。
| 比較軸 | 仲介 | 買取 |
| ① 売却価格 | 市場価格に近い | 市場価格の60〜80%程度 |
| ② 売却期間 | 3〜6ヶ月が目安 | 最短数日〜1ヶ月程度 |
| ③ 費用・手数料 | 仲介手数料あり+諸費用 | 仲介手数料なし・現状渡し可 |
| ④ 売却の確実性 | 買主次第で不確実 | 会社が買うため確実 |
| ⑤ 手間・プライバシー | 内覧対応など手間が多い | 内覧不要・近隣に知られにくい |
4-1. 売却価格
総合的に見て、仲介が圧倒的に有利。
仲介売却では一般の個人や法人が買主となるため、市場価格に近い金額での売却が期待できます。人気エリアの築浅物件であれば、複数の購入希望者が競合し、満額あるいは希望価格以上で売れるケースもあります。
一方、買取価格は市場価格の60〜80%程度が目安です。「仲介手数料が不要だから実質的な差は小さい」という説明を見かけることがありますが、これは現場の実態とはかけ離れています。仲介手数料の節約分(3,000万円の物件で最大約105.6万円)を差し引いても、両者の手取り額の差は依然として大きく、場合によっては1,000万円以上の差がつくこともあるのが実際のところです。
以下に一例を示しますが、これはあくまでシミュレーションであり、実際の数字は物件・状況によって異なります。
| 仲介 | 買取 | |
| 売却価格 | 2,850万円(値下げ後) | 2,400万円(市場価格の80%) |
| 仲介手数料 | △99.45万円 | なし |
| ハウスクリーニング・修繕 | △20万円 | なし |
| 売却期間中のローン・維持費(6ヶ月) | △30万円 | なし |
| 実質手取り額 | 約2,700万円 | 約2,400万円 |
この例では約300万円の差ですが、これは比較的差が小さいケースです。仲介で満額に近い価格で売却できた場合や、買取価格が市場価格の60〜70%台にとどまった場合には、差はさらに大きく広がります。
「仲介手数料を払いたくないから買取にする」という判断は、結果的に大きな損失につながるリスクがあることをしっかり認識しておきましょう。
4-2. 売却にかかる期間
スピードでは買取が有利。ただしそれだけを理由に買取を選ぶのは危険。
仲介売却にかかる期間は一般的に3〜6ヶ月が目安です。物件の立地・状態・価格設定・市況によっては1年以上かかるケースもあります。一方、買取であれば最短数日〜1ヶ月程度で売却が完了します。
スピードという点では買取が圧倒的に有利であることは事実です。しかしここで注意したいのは、「売却に時間がかかる」こと自体は、必ずしもデメリットではないという点です。
仲介にかかる3〜6ヶ月という時間は、言い換えれば「市場価格に近い金額で売るための時間」です。この期間を惜しんで買取を選んだ結果、数百万円単位の損失を被るとすれば、それは明らかに割に合いません。売却を急がなければならない特別な事情がない限り、時間をかけて仲介で売ることが売主にとっての基本姿勢です。
売却期間中のローン返済や維持費の負担が気になる方もいるかもしれませんが、それらのコストを差し引いても仲介のほうが手取りが多くなるケースがほとんどです。売却期間中の維持費を理由に買取を選ぶ前に、まずトータルの収支をしっかり計算してみることをおすすめします。
4-3. 費用・手数料
費用面では買取が有利に見えるが、トータルの手取りで判断することが重要。
仲介売却では売買が成立した際に仲介手数料が発生します。3,000万円の物件であれば最大約105.6万円です。さらに、ハウスクリーニング費用(3〜10万円程度)や設備の修繕費用が加わることもあります。
買取の場合、仲介手数料は原則不要で、現状渡しが基本のためリフォームやクリーニングの費用も原則かかりません。費用面だけを切り取れば、買取が有利に見えることは確かです。
しかし繰り返しになりますが、費用の差よりも売却価格の差のほうがはるかに大きいのが現実です。 仲介手数料という「コスト」だけに目を向けて買取を選ぶのではなく、諸費用を含めたトータルの手取り額で比較することが不可欠です。「手数料ゼロ」という言葉の響きに惑わされないよう注意しましょう。
なお、仲介・買取いずれの場合も、印紙税・登記費用・譲渡所得税(売却益が出た場合)は発生します。これらは共通してかかる費用のため、比較の際は「仲介手数料の有無」と「売却価格の差」を中心に考えると整理しやすいでしょう。
4-4. 売却の確実性
確実性では買取が有利。ただし、それは「売れにくい物件」や「急ぎの事情がある場合」に意味を持つ。
仲介売却の最大のリスクは「買主が見つからなければ売れない」という点です。どれだけ優れた不動産会社に依頼しても、最終的に買うかどうかを決めるのは買主であり、売主にはコントロールできません。売れ残りが続くと値下げを繰り返す悪循環に陥るリスクもあります。
一方、買取は不動産会社が買主であるため、査定額に合意さえすれば必ず売却できます。この「確実性」は買取の大きなメリットであることは間違いありません。
ただし、ここで冷静に考えてほしいのは、市場性のある物件であれば、仲介でも思いのほか早く売れることが多いという点です。需要のある物件で適切な価格設定がされていれば、仲介でも1〜2週間で購入申し込みが入るケースは珍しくありません。「仲介は時間がかかる」というイメージが先行しがちですが、それは主に価格設定が高すぎる場合や、市場性が低い物件の話です。
買取の「確実性」が真に意味を持つのは、老朽化が著しい・心理的瑕疵がある・極めて立地が悪いなど、仲介では買主が見つかりにくい物件の場合や、どうしても期日までに売り切らなければならない事情がある場合です。
普通に市場に出れば売れる見込みのある物件であれば、確実性を理由に買取を選ぶ必要はありません。まずは仲介で売却を試みることが、売主にとって合理的な判断です。
4-5. 手間・プライバシー
手間の少なさとプライバシー保護では買取が有利。ただし、手間を省くためのコストとして適切かどうかを考える必要がある。
仲介売却では内覧対応・価格交渉・告知義務の説明など、売主側の手間が多く発生します。また、ポータルサイトへの掲載で近隣に売却が知られるリスクもあります。買取であれば内覧不要・情報非公開で、手間もプライバシーも守られます。
これらは買取の明確なメリットです。しかし、手間を省くために数百万〜1,000万円以上の損失を受け入れることが合理的かどうかは、冷静に考える必要があります。
もちろん、離婚や相続など周囲に知られたくない特別な事情がある場合や、高齢・遠方居住などで物理的に内覧対応が難しい場合には、手間やプライバシーの問題が売却方法の選択に大きく影響することもあります。そうした事情がある場合は、買取を検討する十分な理由になります。
しかし特別な事情がないのであれば、内覧対応などの手間は「市場価格で売るためのプロセス」と割り切って取り組むことをおすすめします。信頼できる不動産会社に相談しながら進めることで、手間の負担を最小限に抑えることもできます。
5つの軸で比較してきましたが、改めて整理すると、買取のメリットである「スピード」「手間のなさ」「確実性」は、特別な事情がある場合や売れにくい物件の場合に初めて大きな意味を持つものです。そうした事情がない限り、売却価格という最も重要な軸において仲介が圧倒的に有利であることは変わりません。
5. 買取が向いているケース

ここまでの解説で、特別な事情がない限り仲介が基本であることはご理解いただけたかと思います。ただし、以下に挙げるケースに当てはまる方にとっては、買取が合理的な選択肢になることもあります。「自分の状況が本当に買取を選ぶべき理由に該当するかどうか」を冷静に見極めながら読み進めてください。
ケース①:急いで現金化しなければならない特別な事情がある
相続・離婚・転勤・住み替え・ローンの返済など、売却を急がなければならない明確な事情がある場合、買取は有力な選択肢になります。
仲介では買主が見つかるまで平均3〜6ヶ月かかります。ただし前のセクションでも触れた通り、需要のある物件で適切な価格設定がされていれば1〜2週間で申し込みが入るケースもあります。「急いでいるから買取」と即断する前に、まず不動産会社に相談して売却にかかる現実的な期間の見通しを確認することをおすすめします。
それでもなお、期限が明確に迫っている場合や、仲介では間に合わないと判断できる場合には、買取のスピード感は大きな助けになります。たとえば相続では、相続税の納付期限(相続開始から10ヶ月以内)が迫っているケースや、共同相続人との間で早期に遺産分割を済ませたいケースで、買取の即時性が重要な意味を持ちます。
ただし「なんとなく早く売りたい」程度の理由であれば、買取を選ぶ根拠としては不十分です。 数百万〜1,000万円以上の損失を正当化できるほどの切迫した事情があるかどうか、冷静に判断してください。
ケース②:築年数が古い・老朽化が著しい物件
築30年・40年を超えるような物件や、長期間空き家になっていた物件は、仲介での売却が難しくなる傾向があります。購入希望者が見つかりにくいうえ、住宅ローンの審査が通らないケース(金融機関が担保評価を低くつけるため)もあり、買主の選択肢が限られます。
ただし、「築古だから仲介は無理」と決めつける必要はありません。築年数が古くても立地が良い物件や、リノベーション需要が見込める物件であれば、仲介でも十分に売れる可能性があります。まずは仲介で査定を受けて、市場性を確認することが先決です。
一方、本当に老朽化が著しく、一般の買主がなかなか手を出せないような物件については、買取が現実的な選択肢になります。買取の場合、不動産会社はリフォーム・リノベーションを前提に物件を購入するため、そのような物件でも買い取ってもらえる可能性があります。
ケース③:費用をかけずに現状のまま売りたい
「売却前にリフォームやハウスクリーニングにお金をかけたくない」「残置物(家具・家電)をそのままにして引き渡したい」という場合は、買取が向いています。
仲介では内覧時の印象を良くするためにクリーニングや一部修繕を求められることがあります。費用は数万〜数十万円になることもあり、売却前に出費が発生します。買取では現状渡しが基本のため、こうした事前費用を抑えることができます。
ただし、ここでも同じ問いかけをしたいと思います。クリーニングや修繕に数十万円かけることを惜しんで買取を選び、結果として数百万円以上の損失を被ることが本当に合理的かどうか、 冷静に考えてみてください。事前費用の負担が物理的に難しい場合や、高齢・遠方居住などで対応が難しい場合には買取が現実的ですが、単純にコスト感だけで判断することは危険です。
ケース④:近隣や知人に売却を知られたくない特別な事情がある
離婚・借金・事業の失敗など、売却の背景に人に知られたくない事情がある場合、仲介ではポータルサイトへの掲載や折込チラシなどで近隣に情報が広まるリスクがあります。
買取であれば、物件情報が市場に公開されることはなく、売主と不動産会社の間だけで静かに取引を進めることができます。こうしたプライバシー上の切実な事情がある場合には、買取を選ぶ十分な理由になります。
ただし「なんとなく知られたくない」という程度であれば、仲介でも物件名や詳細な住所を伏せる形での掲載ができるケースもあります。不動産会社に相談のうえ、プライバシーへの配慮と売却価格のバランスを考えて判断しましょう。
ケース⑤:仲介で長期間売れ残っている物件
仲介に出してから数ヶ月〜1年以上経っても売れない場合、買取への切り替えを検討するタイミングかもしれません。
ただしここで重要なのは、売れ残っている原因をまず正確に把握することです。価格設定が高すぎる・不動産会社の販売活動が不十分・囲い込みが疑われるなど、売れ残りの原因が物件そのものにあるのではなく、販売戦略や不動産会社側に問題がある場合は、買取に切り替える前に別の不動産会社に相談してみることをおすすめします。
それでもなお、複数社に依頼して適切な価格設定で販売活動を続けても売れ残るようであれば、その物件は仲介での売却が難しい可能性が高いといえます。そのような場合には、これ以上時間をかけることによる機会損失や維持費の負担を考慮し、買取への切り替えを検討する合理的な理由になります。
ケース⑥:心理的瑕疵・告知事項がある物件
過去に事件・事故・自殺などがあった「心理的瑕疵物件(いわゆる事故物件)」は、仲介での売却が非常に難しくなります。告知義務があるため買主への説明が必要で、心理的な抵抗感から購入を敬遠される方も多く、大幅な値下げを余儀なくされるケースがほとんどです。
このような物件については、買取が現実的な選択肢の一つになります。不動産のプロである会社が買主となるため、心理的瑕疵がある物件でも買い取ってもらえる可能性があります。買取専門の不動産会社や、瑕疵物件の取り扱い実績が豊富な会社に相談してみましょう。
ケース⑦:空き家・遠方にある物件の管理が深刻な負担になっている
相続などで遠方に空き家を所有することになった場合、定期的な管理のために足を運ぶことは大きな負担です。また、空き家は放置すると劣化が進み、「特定空き家」に指定されると固定資産税の優遇措置が外れて税負担が大幅に増加するリスクもあります。
こうしたケースでは、早期に売却して管理の手間とコストから解放されることが合理的な判断になります。ただしこの場合も、まずは仲介で査定を受けて市場性を確認することが先決です。需要のある立地であれば仲介でも早期売却できる可能性があります。遠方からでも手続きが進めやすいという点では買取にメリットがありますが、それだけを理由に安易に買取を選ぶことは避けてください。
以上の7つのケースをまとめると、買取が本当に合理的な選択肢になるのは、**「急いで売らなければならない切迫した事情がある」「物件の特性上、仲介では買主が見つかりにくい」「プライバシー上の切実な事情がある」**といった、明確な理由がある場合に限られます。
「なんとなく手軽そう」「手数料がかからないからお得そう」という漠然とした理由で買取を選ぶことは、日々の生活で10円単位の節約を積み重ねている自分自身の努力を、一度の判断で大きく裏切ることになりかねません。買取を検討する際は、「自分の状況は本当にこのケースに該当するのか」を冷静に問い直してから判断するようにしてください。
6. 仲介が向いているケース

ここまでの解説を通じて、特別な事情がない限り仲介が不動産売却の基本であることはご理解いただけたかと思います。このセクションでは、仲介が特に力を発揮するケースを具体的に紹介します。以下に挙げるケースに当てはまる方は、迷わず仲介を選ぶことをおすすめします。
ケース①:できるだけ高く売却したい
「1円でも高く売りたい」という方にとって、仲介は間違いなく基本の選択肢です。買取では市場価格の60〜80%程度が目安になるのに対し、仲介では市場価格に近い金額、あるいは条件次第ではそれ以上の価格での売却も期待できます。
とくに人気エリアや希少性の高い物件では、複数の購入希望者が競合することで価格が上昇するケースもあります。不動産という人生最大級の資産を売却するにあたって、その価値を最大限に引き出したいと思うことは当然のことです。「できるだけ高く売りたい」という気持ちがある方は、それだけで仲介を選ぶ十分な理由になります。
仲介手数料を支払ってもなお、買取と比べて手取り額が大きくなるケースがほとんどです。手数料を「コスト」ではなく「市場価格での売却を実現するための投資」と捉えることが大切です。
ケース②:売却時期に余裕がある
仲介での売却には平均3〜6ヶ月かかりますが、売却を急ぐ必要がなく時間をかけて良い買主を探せる状況であれば、仲介のメリットを最大限に活かせます。また前述の通り、需要のある物件で適切な価格設定がされていれば、1〜2週間で申し込みが入るケースもあります。「仲介は時間がかかる」と決めつける必要はありません。
「来年の春までに売れればいい」「住み替え先が見つかってから売り出したい」など、売却スケジュールに余裕がある場合は、焦らず仲介で市場に出してみることをおすすめします。時間的余裕があることで、値下げ交渉にも強気で臨むことができ、納得のいく価格で売却できる可能性が高まります。
ケース③:築浅・駅近・人気エリアなど市場性が高い物件
築年数が浅い・最寄り駅から徒歩圏内・生活利便性が高いエリアにあるなど、市場での需要が高い物件は、仲介での売却に最も向いています。こうした物件は買主が見つかりやすく、売れ残りリスクが低いため、仲介のデメリットである「売却の不確実性」が大幅に軽減されます。
市場性が高い物件を買取で売却することは、はっきり言って非常にもったいない選択です。本来であれば高く売れるはずの物件を、不動産会社の利益やリフォームコストを差し引いた価格で手放すことになるからです。物件の市場価値が高いと感じるほど、仲介を選ぶべき理由は強くなります。
ケース④:住み替えを検討中で売却価格を購入資金に充てたい
現在の住まいを売却し、新たな物件を購入する「住み替え」を検討している場合、売却価格が次の物件購入の資金計画に直結します。そのため、できるだけ高く売れる仲介を選ぶメリットは特に大きくなります。
住み替えには大きく「売り先行」と「買い先行」の2つのパターンがあります。
- 売り先行:現在の物件を売却してから新居を購入する方法。資金計画が立てやすく、売却価格を購入予算に充てやすい。ただし売却と購入のタイミングが合わないと仮住まいが必要になることも。
- 買い先行:新居を先に購入してから現在の物件を売却する方法。住み替えのタイミングを合わせやすいが、売却前に新居のローンが始まるため、一時的に二重ローンになるリスクがある。
いずれのパターンでも、売却価格の見通しが資金計画の根幹を担います。仲介で時間をかけて高く売ることが、住み替え全体のコストを抑えることに直結します。住み替えを検討している方こそ、仲介を基本として売却価格の最大化を目指してください。
ケース⑤:相場観を確認してから最終判断したい
「そもそも自分の物件がいくらで売れるのかわからない」「買取査定額が適正かどうか判断できない」という方は、まず仲介で査定を受けて市場相場を把握することをおすすめします。
仲介査定を複数社に依頼することで、物件の市場価値の目安がつかめます。その相場感をベースに買取査定額と比較すれば、買取価格がいかに低いかを客観的に実感できるはずです。
仲介査定は無料で依頼できるうえ、査定を受けたからといって必ず仲介で売却しなければならないわけではありません。まず仲介で複数社の査定を受けて相場を把握し、そのうえで買取と比較して最終判断するというステップは、どのような物件・状況でも必ず踏んでほしいプロセスです。査定額の比較なしに買取を選ぶことは、自分がどれだけ損をしているかを知らないまま契約することと同じです。
仲介を選ぶ際の注意点
仲介を選んだあとも、以下の点に注意することで売却をより有利に進めることができます。
価格設定を高くしすぎない
「少しでも高く売りたい」という気持ちから、相場より大幅に高い価格で売り出すと、買主がつかずに売れ残るリスクが高まります。長期間売れ残ると値下げを余儀なくされ、結果的に相場より低い価格での売却になるケースも少なくありません。査定額を参考に、現実的な価格設定を心がけることが大切です。
媒介契約の種類を慎重に選ぶ
媒介契約には専属専任・専任・一般の3種類があります。どの契約を選ぶかによって不動産会社の動き方や売却戦略が変わります。契約形態のメリット・デメリットをしっかり理解したうえで選択しましょう。
「囲い込み」に注意する
囲い込みとは、不動産会社が売主と買主の両方から仲介手数料を得るために、他社からの購入希望者を意図的にブロックする行為です。レインズへの登録を怠ったり、他社からの問い合わせに対して「すでに商談中」などと虚偽の説明をするケースが該当します。囲い込みをされると売却機会が減り、売れ残りや値下げにつながります。複数社に査定を依頼し、信頼できる会社を選ぶことが最大の対策です。
仲介が向いているケースを見てきましたが、改めて強調したいのは、「特別な事情がない限り、仲介が不動産売却の基本である」という点です。買取には確かに便利な側面もありますが、それは売主が大きなコストを支払うことで成り立つ便利さです。日常生活で積み重ねてきた節約の努力を、不動産売却の場面でも同じように発揮することが、最終的な手取り額を最大化することにつながります。
7. 「買取保証」という第三の選択肢

「できれば高く売りたいけれど、確実に売り切りたい」という、仲介と買取の両方の希望を持つ方に向けた選択肢が**「買取保証」**です。一見すると魅力的な仕組みに見えますが、結論から言えば、買取保証は多くの売主にとってお勧めできない選択肢です。 その理由を正直にお伝えします。
7-1. 買取保証の仕組み
買取保証とは、まず一定期間は仲介で売却を試み、期間内に売れなかった場合は事前に決めた価格で不動産会社が買い取ることを保証するサービスです。
具体的な流れは以下の通りです。
① 買取保証価格の決定
売却活動を始める前に、不動産会社から「仲介で売れなかった場合の買取保証価格」が提示されます。この価格は通常の買取査定額と同程度か、それより低くなることもあります。
② 仲介による販売活動(一定期間)
合意した買取保証価格を念頭に置きながら、まずは仲介で売却活動を行います。販売期間は不動産会社によって異なりますが、一般的に1〜3ヶ月程度に設定されることが多いです。この期間中に市場価格に近い金額で買主が見つかれば、そのまま仲介売却として完結します。
③ 期間内に売れなかった場合は買取へ切り替え
設定した販売期間内に売れなかった場合、事前に合意した買取保証価格で不動産会社が物件を買い取ります。
7-2. 買取保証が抱える本質的な問題
買取保証の仕組みを聞くと、「仲介で高く売れればラッキー、売れなくても買い取ってもらえる」という安心感を覚えるかもしれません。しかし、この仕組みには売主にとって見過ごせない構造的な問題があります。
不動産会社には「仲介で売らない」インセンティブがある
買取保証において、不動産会社にとって最も利益が大きいのはどちらのシナリオでしょうか。仲介で売却が成立した場合、不動産会社が得られるのは仲介手数料のみです。一方、買取保証を使って自社が買い取った場合、不動産会社はリフォーム後の転売益を丸ごと得ることができます。
つまり、不動産会社にとっては仲介で売れないほうが儲かるという構造になっているのです。
この利益相反の構造が現場で何を生むかというと、仲介期間中の販売活動がいい加減なものになりやすいという問題です。ポータルサイトへの掲載はするものの、積極的な営業活動はせず、内覧の機会も十分に作らない。表向きは「一生懸命売ろうとしたが売れなかった」という体裁を整えながら、実質的には買取への誘導を狙った形だけの販売活動になってしまうケースが少なくありません。
売主の立場から見れば、本来は仲介で市場価格に近い金額で売れたはずの物件が、不動産会社の都合によって「売れなかった」扱いにされ、大幅に低い買取保証価格で手放すことになってしまうのです。
仲介期間が「無意味な時間」になってしまう
買取保証における仲介期間は、本来「より高く売るための時間」であるはずです。しかし上記の構造的な問題から、この期間が実質的に無意味なものになってしまうケースが多いのが現実です。売主にとっては、時間だけが過ぎて結局は低い買取価格で売却するという、最悪の結果につながりかねません。
7-3. その他の注意点
構造的な問題に加えて、以下の点にも注意が必要です。
買取保証価格は通常の買取よりさらに低くなることがある
買取保証価格は、不動産会社にとって「将来買い取るかもしれない」というリスクを織り込んだ価格になるため、通常の即時買取価格よりさらに低く設定されるケースがあります。仲介期間中に売れず、買取保証を使う結果になった場合、想定より手取りが大幅に少なくなる可能性があります。
提供している不動産会社が限られ、条件も会社によって大きく異なる
同じ「買取保証」という名称でも、保証期間・保証価格の算出方法・適用条件が会社によって大きく異なります。「仲介期間中に1件以上の内覧があった場合のみ保証適用」「売主都合のキャンセルは保証対象外」など、細かい条件が設定されているケースもあり、契約内容を隅々まで確認する必要があります。
7-4. 買取保証より賢い選択肢
「売れ残りが不安」「期限までに確実に売り切りたい」という方が買取保証に惹かれる気持ちはよく理解できます。しかしそのような場合でも、買取保証より優先して検討すべき方法があります。
信頼できる1社を選び、専任媒介で徹底的に監視する
売れ残りへの不安を解消する最善の方法は、買取保証に頼ることではなく、信頼できる不動産会社を慎重に選び、専任媒介契約を結んだうえでしっかりと監視することです。
複数社に依頼すれば安心と思いがちですが、一般媒介で複数社に任せると、各社の販売意欲が下がりやすくなるうえ、それぞれの活動状況を把握して監視することが難しくなります。結果として、誰も本気で売ろうとしない状況に陥るリスクがあります。
それよりも、査定時の対応・担当者の知識・販売戦略の具体性などをしっかり比較したうえで「この会社なら任せられる」と思える1社を選び、専任媒介で契約する方が効率的で良い結果につながりやすいといえます。契約後は活動報告を定期的に確認し、レインズへの登録状況・問い合わせ件数・内覧の状況などをこまめにチェックすることで、不動産会社に「きちんと見ている売主だ」という意識を持たせることが大切です。囲い込みや手抜きは、監視の目があることで抑止できます。
仲介で売れなかった場合に改めて買取を検討する
売れ残りが現実になってから買取を検討しても、遅くはありません。仲介期間中は本気で売却活動に取り組み、それでも売れなかった場合に複数の買取業者に査定を依頼して比較する、というステップを踏むことで、買取保証に縛られることなく柔軟に対応できます。
整理:3つの売却方法の比較
| 仲介 | 買取(即時) | 買取保証 | |
| 売却価格 | 最も高い可能性 | 最も低い | 中間だが保証価格は低め |
| 売却期間 | 3〜6ヶ月以上(需要次第では1〜2週間も) | 最短数日〜1ヶ月 | 仲介期間(1〜3ヶ月)+買取(最短) |
| 確実性 | 物件・価格次第 | 高い | 高い(期間終了後は確実) |
| 手間 | 多い | 少ない | 仲介期間中はあり |
| 販売活動の質 | 不動産会社次第だが監視可能 | 該当なし | いい加減になりやすい(要注意) |
| 総合評価 | 基本の選択肢 | 特別な事情がある場合に限り検討 | 原則お勧めしない |
買取保証は一見するとリスクを抑えた賢い選択肢のように見えますが、その裏に潜む構造的な問題を理解すると、売主にとって必ずしも有利なサービスではないことがわかります。「安心できる仕組み」という印象の裏側に、不動産会社の利益優先の構造が隠れていることを忘れないでください。
売却の不安や期限の問題は、信頼できる不動産会社と丁寧に相談することで解決できるケースがほとんどです。買取保証に頼る前に、まずは仲介での可能性を最大限に追求することをおすすめします。
8. 失敗しないための3つの鉄則

ここまで仲介・買取・買取保証の仕組みや向き不向きを詳しく解説してきました。どの方法を選ぶにしても、売却で後悔しないために必ず押さえておきたい鉄則が3つあります。
鉄則①:必ず複数社に査定を依頼する
売却方法を決める前に、必ず複数社に査定を依頼することは、不動産売却における最低限のステップです。
査定を1社だけに依頼して売却を進めることは、価格の妥当性をまったく確認しないまま契約することと同じです。不動産の査定額は、同じ物件でも会社によって数百万円単位で差が出ることがあります。複数社の査定額を比較することで、はじめて自分の物件の相場感をつかむことができます。
査定を複数社に依頼することは、買取を検討している場合でも同様です。買取価格も会社によって大きく異なるため、1社の提示額だけで判断することは避けてください。複数社の買取査定額を比較することで、提示された価格が適正かどうかを客観的に判断できます。
また、仲介査定と買取査定を両方受けることで、両者の価格差を自分の目で確認できます。「仲介なら○○○万円、買取なら○○○万円」という具体的な数字が出て初めて、どちらを選ぶべきかの判断材料が揃います。査定はいずれも無料で依頼できます。まず査定を受けることを、売却活動の絶対的な出発点にしてください。
鉄則②:レインズへの登録を徹底させ、囲い込みを防ぐ
複数社に査定を依頼したあと、どの会社に売却を任せるかの選択が売却結果を大きく左右します。そして、不動産会社を選ぶうえで最も重視すべきポイントは、レインズへの適切な登録と囲い込みをしないかどうかです。
なぜこの2点がそれほど重要なのでしょうか。レインズとは、全国の不動産会社が物件情報を共有するネットワークシステムです。自分の物件がレインズにきちんと登録されれば、日本中の不動産会社が抱えるすべての購入希望客に物件情報が届きます。つまり、レインズに正しく登録されさえすれば、1社に仲介を依頼していても、市場に存在するすべての不動産会社の営業力を活用できることになるのです。
逆に言えば、レインズへの登録が適切に行われ、囲い込みさえ防ぐことができれば、9割方、その物件本来の実力通りの売却結果が得られるといっても過言ではありません。担当者の営業スキルや会社の規模よりも、この2点のほうがはるかに売却結果に直結します。
囲い込みとは何か、なぜ起きるのか
囲い込みとは、不動産会社が売主と買主の両方から仲介手数料を得る(両手仲介)ために、他社からの購入希望者を意図的にブロックする行為です。具体的には、他社から「購入希望者がいるので内覧したい」という問い合わせが来ても「すでに商談中です」「売主の都合で内覧できません」などと虚偽の説明をして、他社経由の買主を排除します。
売主にとっては購入希望者が減り、売れ残りや値下げにつながる深刻な問題です。不動産会社にとっては両手仲介のほうが片手仲介の2倍の手数料収入になるため、残念ながらこうした行為が完全になくなっていないのが現実です。
レインズ登録と囲い込みを防ぐための具体的な確認方法
売主自身がレインズの登録状況を確認する方法があります。専任媒介・専属専任媒介契約を結ぶと、不動産会社はレインズに物件を登録した際に「登録証明書」を売主に交付する義務があります。この証明書を必ず受け取り、記載されている登録番号でレインズの物件検索サイト(「レインズ・マーケット・インフォメーション」)から実際に登録されているかを確認してください。
また、囲い込みを防ぐための確認ポイントとして以下を押さえておきましょう。
- 登録証明書が契約後すみやかに交付されているか(専属専任は5営業日以内、専任は7営業日以内が法定義務)
- レインズに登録された物件情報の内容・写真が適切か
- 他社からの問い合わせ・内覧申し込みの件数を定期的に報告してもらえるか
- 問い合わせがあったにもかかわらず内覧につながっていないケースが多くないか
もし「登録証明書がなかなか交付されない」「他社からの問い合わせが一件もない」といった不審な点があれば、囲い込みを疑って担当者に直接確認することをためらわないでください。売却活動の透明性を求めることは、売主として当然の権利です。
査定額の高さだけで会社を選ばない
不動産会社を選ぶ際、もう一点注意したいのが「高値査定」です。悪質な不動産会社の中には、媒介契約を取るために意図的に高い査定額を提示し、契約後に「市場の反応を見ると少し価格が高かったようです」と値下げを促してくるケースがあります。査定額の根拠を担当者にしっかり説明してもらい、その内容が納得できるかどうかで判断するようにしましょう。
鉄則③:トータルの手取り額で判断する
売却方法や不動産会社を比較する際、表面上の売却価格や手数料だけで判断しないことが重要です。最終的に自分の手元に残る「実質的な手取り額」で比較することを習慣にしてください。
具体的には、以下の要素をすべて考慮したうえでトータルの収支を計算します。
- 売却価格(値下げ交渉後の現実的な着地点)
- 仲介手数料(仲介の場合)
- ハウスクリーニング・修繕費用
- 売却期間中のローン返済・管理費・固定資産税
- 引越し費用
- 譲渡所得税(売却益が出る場合)
とくに買取と仲介を比較する際、「買取は仲介手数料がかからないからお得」という見方は危険です。仲介手数料の節約分よりも売却価格の差のほうがはるかに大きいケースがほとんどであることは、この記事で繰り返しお伝えしてきた通りです。
また、売却価格を少し下げても早く売ることで、売却期間中のローン返済や維持費の負担を減らせるという考え方もあります。しかしその計算も、実際の数字で検証してみると「やはり仲介で時間をかけて高く売ったほうが手取りが多い」という結論になるケースが大半です。感覚的な判断ではなく、必ず具体的な数字で比較するようにしてください。
この3つの鉄則を守ることは、どの売却方法を選ぶ場合でも共通して重要です。改めて整理すると、「複数社に査定を依頼して相場を把握する」「レインズ登録と囲い込み防止を徹底させる」「トータルの手取り額で判断する」――この3つを実践するだけで、売却における大きな失敗の多くを防ぐことができます。
9. まとめ|あなたに合う売り方はどっち?

ここまで、仲介・買取・買取保証の仕組みから、具体的なケース別の向き不向き、失敗しないための鉄則まで詳しく解説してきました。最後に全体を振り返りながら、あなたに合う売り方を判断するためのポイントを整理します。
この記事で伝えたかったこと
この記事を通じて一番お伝えしたかったことは、**「特別な事情がない限り、不動産売却の基本は仲介である」**というシンプルな事実です。
買取には「手軽」「すぐ売れる」「手数料不要」といった魅力的な言葉が並びます。しかし現場の実態を見ると、よほど特殊な物件や切迫した事情がある場合を除いて、仲介のほうが圧倒的に良い結果になるケースがほとんどです。買取を選んだことで仲介と比べて1,000万円以上も手取りが少なくなってしまった売主がいることも、この記事でお伝えした通りです。
日々の生活の中で10円単位の節約を積み重ねているあなたが、不動産売却という人生最大級の場面だけで気が大きくなり、その努力を一度の判断で大きく裏切ることがないよう、売却方法の選択には慎重に向き合ってください。
判断フロー:あなたはどちらを選ぶべきか
以下のフローに沿って、自分の状況を確認してみてください。
STEP 1:急いで売らなければならない切迫した事情がありますか?
- ある(相続税の納付期限が迫っている・離婚で早急に現金化が必要・転勤の期日が決まっているなど)→ STEP 3へ
- ない → STEP 2へ
STEP 2:物件に特別な問題がありますか?
- ある(築年数が極めて古い・老朽化が著しい・心理的瑕疵がある・極めて立地が悪いなど)→ STEP 3へ
- ない → → 仲介を選ぶことをおすすめします
STEP 3:まず仲介で査定を受け、市場価格を確認しましたか?
- まだ → → まず仲介で複数社の査定を受けてください。市場価格を把握してから買取査定と比較し、最終判断してください
- 受けた・比較した → → 仲介と買取の手取り額の差を具体的な数字で確認したうえで、買取を選ぶ理由が十分あるかを冷静に判断してください
売却を成功させるための5つのポイント
最後に、この記事の内容を5つに凝縮してお伝えします。
① 特別な事情がない限り、仲介が基本
買取は「手軽でお得」というイメージがありますが、現場の実態は異なります。特別な事情がない限り、まず仲介を選ぶことが売主にとって合理的な判断です。
② 必ず複数社に査定を依頼して相場を把握する
売却方法を決める前に、必ず複数社に査定を依頼してください。仲介査定と買取査定の両方を受けることで、両者の価格差を自分の目で確認できます。査定はすべて無料です。
③ レインズ登録と囲い込み防止が売却成功の鍵
信頼できる1社を選んで専任媒介契約を結び、レインズへの適切な登録と囲い込みの防止を徹底させてください。この2点さえ確保できれば、9割方、物件本来の実力通りの結果が得られます。
④ 買取保証は原則お勧めしない
仲介期間中の販売活動がいい加減になりやすいという構造的な問題があります。「売れ残りが不安」という場合は、買取保証に頼るのではなく、信頼できる不動産会社を選んでしっかり監視しながら仲介で売ることが先決です。
⑤ トータルの手取り額で判断する
売却価格・仲介手数料・修繕費・売却期間中の維持費など、すべての要素を考慮した「実質的な手取り額」で比較してください。表面上のコストや価格だけで判断することは避けましょう。
よくある質問

Q. 買取と仲介、どちらが手取りは多い?
特別な事情がある物件を除けば、ほとんどのケースで仲介のほうが手取りは多くなります。買取では仲介手数料が不要ですが、売却価格が市場価格の60〜80%程度になるため、手数料の節約分を差し引いても仲介のほうが有利なケースがほとんどです。場合によっては1,000万円以上の差がつくこともあります。
Q. 仲介で売れなかった場合、買取に切り替えられる?
切り替え可能です。仲介で一定期間売れ残った場合、改めて複数の買取業者に査定を依頼して比較したうえで買取に切り替えることができます。売れ残りの原因が価格設定や不動産会社の販売活動にある場合は、買取に切り替える前に別の不動産会社に相談することも有効です。
Q. マンションと一戸建てで向き不向きはある?
基本的な考え方はどちらも同じで、特別な事情がない限り仲介が基本です。ただし、マンションは一戸建てに比べて同一物件の売買事例が多く価格が査定しやすいため、仲介での売却がスムーズに進むケースが多い傾向があります。一戸建ての場合は物件の個別性が高く、価格設定がより重要になります。
Q. 買取を断られることはある?
あります。極めて老朽化が著しい・法的な問題がある・再建築不可物件など、不動産会社がリフォームして転売することが難しいと判断した場合には、買取を断られるケースがあります。ただし、買取専門の業者や訳あり物件を専門に扱う業者であれば対応できる場合もあるため、複数社に相談することをおすすめします。
Q. 査定を依頼したら、必ずその会社で売却しなければならない?
そのような義務は一切ありません。査定は無料で、査定を受けたからといって売却を約束したことにはなりません。むしろ複数社に査定を依頼して比較することが、適正な相場を把握するための重要なステップです。安心して複数社に依頼してください。
不動産売却は、多くの方にとって人生で何度もある経験ではありません。だからこそ、この記事でお伝えした内容をしっかりと活かして、後悔のない売却を実現していただければ幸いです。
執筆者:松村保誠
宅建士・1級FP技能士・マンション管理士
宅建士3200名超を指導、不動産関連著書9冊


