不動産売却は大手より地場業者を選ぶべき理由——囲い込みリスクと業者選びの正解
執筆者:松村保誠(宅建士・1級FP技能士・マンション管理士)
2026年6月26日

不動産の売却を決意したとき、多くの方が最初に思い浮かべるのは大手不動産会社の名前ではないでしょうか。テレビCMで見慣れたロゴ、駅前の立派な店舗、全国規模のネットワーク。「大手なら安心」という感覚は、ごく自然なものだと思います。
しかし、この「大手なら安心」という思い込みが、売主にとって最も大切な売却価格を押し下げる原因になっているとしたらどうでしょうか。
不動産業界には「囲い込み」と呼ばれる慣行が存在します。これは、物件の情報を他の不動産会社に開放せず、自社だけで売主と買主の両方を抱え込もうとする行為です。成功すれば会社は仲介手数料を双方から受け取れるため、収益構造的においしい取引になります。一方で売主には、本来もっと高く買ってくれる買主と出会う機会が失われ、知らないうちに安値での売却を余儀なくされるというリスクが生じます。
問題の根深さは、売主がそのことに気づかない点にあります。売れてしまえば「無事に売れた」としか見えません。自分が損をしたという事実そのものが、永遠に見えないまま取引が完結してしまうのです。
そしてこの囲い込みは、強力な集客力と営業組織を持つ大手業者でこそ起きやすい構造になっています。
もちろん、大手業者にも本物の強みはあります。地場の中小業者にも弱点は存在します。この記事では一方的に大手を批判するのではなく、両者の特性を公平に整理しながら、売主が自分自身の利益を守るために知っておくべきことを正直にお伝えしていきます。
「誰に頼むか」は、売却結果を大きく左右する最初の、そして最も重要な判断です。その判断を、どうか根拠のある納得感を持って下せるよう、一緒に考えていきましょう。
囲い込みの詳細についてはコチラ。
不動産の囲い込みとは?大手に依頼するほど危ない理由と自分を守る5つの方法
大手・地場業者とは何か

「大手」と「地場業者」の定義
まず言葉の整理から始めましょう。
「大手不動産会社」とは、全国または広域に店舗を展開し、テレビCMや大手ポータルサイトへの広告出稿を積極的に行っている不動産会社を指します。財閥系・大手私鉄系の仲介会社や、全国に加盟店網を持つ大手フランチャイズ系の会社がその代表例です。潤沢な広告予算と全国規模のブランド力を持つことが共通の特徴です。
一方「地場の中小業者」とは、特定の市区町村や沿線エリアを主な商圏として営業する、従業員数名から数十名規模の不動産会社を指します。全国チェーンではなく、地域の中で長年にわたって取引を積み重ねてきた会社です。派手な広告こそ打ちませんが、地元の相場感や物件情報、地域特有の買主ニーズを肌で知っているのが強みです。
日本の不動産会社の数と市場の実態
国土交通省の統計によると、日本全国の宅地建物取引業者の数は約12万社にのぼります。これはコンビニエンスストアの全店舗数(約5万7千店)の2倍以上です。不動産業界がいかに中小・零細業者を中心に成り立っているかが、この数字からも読み取れます。大手と呼ばれる会社はそのうちのほんの一握りに過ぎません。
取引の仕組み:レインズとは何か
大手・地場を問わず、不動産の売買仲介はほぼすべて「レインズ(REINS)」という仕組みの上で動いています。レインズとは、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営する、不動産情報の共有ネットワークです。売主と媒介契約を結んだ業者は、原則としてレインズに物件情報を登録する義務があります。
このシステムの趣旨は明快です。全国の不動産業者が物件情報を共有することで、より多くの買主候補と物件を結びつけ、売主にとって最も有利な条件での売却を実現する、というものです。
ところが実際には、レインズへの登録義務があっても、それだけでは売主の利益は守られません。登録はしながらも他社からの問い合わせに対して「すでに商談中です」「売主が内覧を断っています」などと虚偽の理由を告げて遮断したり、そもそも登録自体を意図的に遅らせたりすることができてしまうからです。こうして、本来は広く買主を募るためにあるレインズの機能を形骸化させる行為が「囲い込み」です。
次のセクションでは、この囲い込みのメカニズムを、仲介手数料の構造から掘り下げて解説します。なぜ大手がこれをやりやすいのか、そしてなぜ売主は気づけないのか、具体的に見ていきます。
「囲い込み」とは何か──大手特有のリスクの正体

仲介手数料の構造を知ることから始める
不動産の売買が成立したとき、仲介業者が受け取れる報酬のことを「仲介手数料」と言います。その上限は法律で定められています。売買価格が400万円超の場合、仲介業者が受け取れる手数料の上限は「売買価格×3%+6万円+消費税」です。そしてこれは売主側・買主側それぞれから受け取れる金額であり、両者から合わせて最大でその2倍を受け取ることが可能です。
ここで重要なのが「売主側・買主側それぞれから」という部分です。
売主側の仲介業者と買主側の仲介業者が別々の会社であれば、それぞれが自分のお客さんから手数料を受け取ります。これを「片手仲介」と呼びます。一方、同じ一社が売主と買主の両方を担当して取引をまとめた場合、その会社は双方から手数料を受け取ることができます。これが「両手仲介」です。
同じ売買を仲介しても、片手と両手では会社に入る収益が単純に2倍異なります。これが囲い込みの根本的な動機です。
囲い込みのメカニズム
両手仲介を狙う業者が取る行動はシンプルです。自社以外の業者が買主を見つけてしまうことを防ぐ、ただそれだけです。
レインズに登録しても、他社からの問い合わせや内覧申し込みを「商談中につき受付できません」「売主の意向で内覧をお断りしています」などと言って断る。あるいは登録のタイミングを遅らせ、その間に自社で買主を探す。広告には物件を露出させながら、実際の購入機会は自社顧客にだけ開放する。手口はさまざまですが、本質は一つです。売主の物件を、売主に無断で「自社専用商品」として扱うことです。
本来であれば、A社・B社・C社・D社……と多くの業者が競って買主を探してくれるはずの状況を、意図的に1社独占の状況に変えてしまう。競争原理が働かなければ、当然ながら売却価格は上がりにくくなります。
なぜ大手で起きやすいのか
囲い込みは理論上どの業者でも行えますが、実際には大手業者でこそ起きやすい構造があります。
理由は大手の「強み」そのものの裏側にあります。大手は膨大な広告費をかけて多くの買主候補を自社に集めています。つまり、他社の力を借りなくても自社だけで買主を見つけられる可能性が、地場の中小業者に比べて格段に高い。両手仲介を狙う条件が、最初から整っているのです。
加えて、大手の営業担当者には売上ノルマが課されていることが一般的です。両手仲介が成立すれば、ノルマ達成への貢献度も2倍になります。個々の営業担当者レベルでも、囲い込みに向かうインセンティブが構造的に埋め込まれています。
さらに言えば、大手ほど「自社ブランドへの信頼」を売り物にしています。売主は「あの大手に頼んでいるから大丈夫」と安心して任せきりになりやすい。その信頼が、皮肉にも監視の目を緩めさせ、囲い込みを見逃す温床になってしまうのです。
売主が気づかない理由
囲い込みの最も厄介な点は、被害を受けた売主がそれに気づかないまま取引を終えてしまうことです。
物件は最終的に売れます。担当者は「無事に売れましたよ」と報告します。売主には売却代金が入ります。一見、何の問題もない取引です。
しかし売主には比較する手段がありません。もし囲い込みがなく、多くの業者が競って買主を探してくれていたなら、もっと高い価格で売れていたかもしれない。その「もしもの価格」は、永遠に知ることができないのです。
損をしたという事実が見えない。だから泣き寝入りにすらならない。これが囲い込みという行為の、最も罪深い部分だと言えます。
経済的損失の具体的なイメージ
では実際にどれほどの損失が生じうるのでしょうか。
仮に市場価値が3,000万円の物件があるとします。囲い込みによって競争が起きず、2,800万円で売却が成立したとしましょう。差額は200万円です。売主はこの200万円を「失った」という認識すら持てないまま、取引を終えます。
一方、仲介業者は売主・買主双方から手数料を受け取ります。3%+6万円の計算式でいえば、片側あたり約90万円、両側合わせて約180万円の手数料収入です。もし片手仲介であれば約90万円だったはずの収益が、囲い込みによって倍になる。売主の200万円の損失と、業者の90万円の利益増が、同じ一つの取引の中で同時に発生しているわけです。
大手業者の正直な評価

本当に強い部分は認める
ここまで囲い込みのリスクを中心に述べてきましたが、大手業者にも本物の強みがあることは公平に認めておく必要があります。
まず広告力です。大手は大手ポータルサイトへの優先的な掲載枠や、自社サイトへの集客において、地場の中小業者とは比較にならないリソースを持っています。物件情報がより多くの買主候補の目に触れる機会が多いことは事実です。
次にブランド力です。「あの会社が仲介している物件なら信頼できる」という買主心理は実際に存在します。特に遠方からの購入検討者や、不動産取引に不慣れな買主に対しては、大手のブランドが安心感として機能する場面があります。
また、組織としてのサポート体制も強みの一つです。法務・税務・ローンなど、売買に付随するさまざまな手続きについて、社内の専門部署や提携先と連携しながら対応できる体制が整っていることが多く、複雑な取引でも一定の安心感があります。
一見すると、都市部の分譲マンションは買主層が広くポータルサイト経由の成約も多いため、大手の集客力が活きやすい物件に思えます。しかし後述するように、需要が高い物件ほど囲い込みリスクも高くなるという現実があります。大手の強みと囲い込みリスクは、こうした物件において表裏一体なのです。
過大評価されている部分
一方で、大手であることが自動的に「良い売却結果」につながるわけではない点も、冷静に見ておく必要があります。
「全国ネットワーク」はその代表例です。確かに全国に店舗があることは事実ですが、不動産の購入者は原則として物件の近隣エリアに在住・在勤の方が中心です。北海道の店舗が大阪の物件の買主を見つけてくることは、現実にはほぼありません。全国ネットワークという言葉の響きほど、売却において実質的な意味を持つ場面は多くないのです。
「豊富な実績・成約データ」についても同様です。会社全体の取引件数が多いことと、あなたの物件が適正価格で売れることは、直接的には結びつきません。実績はあくまで会社の規模を示すものであり、担当者個人の能力や、その物件・エリアへの精通度とは別の話です。
担当者の質のばらつき問題
大手業者を選ぶ際に見落とされがちなのが、担当者個人の能力・姿勢のばらつきです。
大手は当然ながら多くの営業担当者を抱えています。経験豊富で誠実な担当者がいる一方で、入社間もない担当者や、ノルマ達成を優先するあまり売主の利益より自社の収益を優先しがちな担当者もいます。「大手に頼んだ」という事実は、良い担当者に当たることを保証しません。
むしろ大手では、担当者が異動・退職した際に引き継ぎが発生し、途中で担当者が変わってしまうことも珍しくありません。売却活動は数ヶ月にわたることが多く、その間に担当者が変わることは、売主にとって決して小さなリスクではありません。
結論:大手の強みは「条件付き」で活きる
大手業者の強みは確かに存在しますが、それが売主の利益に直結するのは一定の条件下に限られます。標準的な物件、そして何より囲い込みをしない誠実な担当者に当たった場合、という条件です。
ブランドと規模に安心感を覚えるのは人間として自然な心理です。しかしその安心感が、売主自身の監視の目を曇らせ、結果として不利な売却を招くリスクがあることは、どうか頭の片隅に置いておいてください。
地場の中小業者が強い理由

地域の相場と需要への精通
地場の中小業者が持つ最大の強みは、特定エリアに関する知識の深さです。
長年にわたって同じ地域で営業を続けてきた業者は、公開されている相場データだけでなく、実際の取引から積み上げてきた肌感覚の情報を持っています。「この町の〇丁目は南向きの物件に根強い需要がある」「この路線沿いは子育て世代の買い替え需要が活発だ」「あの角地は見た目以上に評価が高い」といった、データには現れにくいリアルな市場感覚です。
これは売却価格の設定において大きな意味を持ちます。相場より低い価格をつければ機会損失になり、高すぎれば売れ残ります。適正価格の見極めは、エリアへの深い理解なしには難しく、地場業者が本領を発揮するのはまさにこの部分です。
また地場業者は、地域内の買主候補を直接把握していることも少なくありません。「以前に似た条件の物件を探していたお客さんがいた」「近隣の住民から買い替えの相談を受けている」といった人脈ベースのマッチングは、ポータルサイトの検索では生まれない出会いです。
両手仲介に依存しないビジネス構造
地場の中小業者が囲い込みをやりにくい理由は、道徳的な問題だけではありません。ビジネス構造上の理由もあります。
地場業者は大手のような強力な集客力を持っていないため、自社だけで買主を見つけることが難しいケースが多い。つまり、他社と協力して買主を探すことが、取引を成立させるための現実的な手段なのです。囲い込みをして他社を排除することは、自ら成約の可能性を狭めることに直結します。
言い換えれば、地場業者にとってレインズを通じた他社との協力は、商売の基本です。売主の物件を広く市場に開放することと、自社の利益を追求することが、大手に比べてはるかに一致しやすい構造になっています。
顔の見える関係と丁寧な対応
地場の中小業者では、最初に相談した担当者が最後まで売却活動に携わることが一般的です。担当者が途中で変わることはほとんどなく、売主は一貫して同じ人間と信頼関係を築きながら売却を進めることができます。
また規模が小さいからこそ、一件一件の取引が会社の評判に直結します。地域コミュニティの中で長年営業を続けるためには、目先の利益よりも誠実な対応を積み重ねることが、長期的な生存戦略になります。「地元での評判」が会社の資産であるという意識は、大手の営業担当者が個人のノルマを意識するのとは異なる、売主寄りの行動原理につながりやすいのです。
特殊物件・難しい物件との親和性
再建築不可物件、古家付き土地、農地、狭小地、旗竿地、市街化調整区域内の物件など、いわゆる訳あり物件や特殊物件の売却において、地場業者の強みは特に際立ちます。
こうした物件は、大手のマニュアル的な対応では買主を見つけにくい場合があります。一方、地域に根ざした業者であれば、そうした物件でも購入を検討してくれる地元の買主や投資家、工務店などとのネットワークを持っていることが多い。「この物件なら、あの人が興味を持つかもしれない」という発想は、エリアを深く知る業者にしかできないものです。
相続や離婚など、事情を抱えた売却においても、地場業者の対応力が光る場面があります。画一的なフローではなく、売主の個別事情に寄り添いながら柔軟に対応できるのは、小回りの利く中小業者ならではの強みです。
地場業者を選ぶ際の注意点

地場業者であれば安心、とはならない
ここまで地場の中小業者の強みを述べてきましたが、地場業者であれば無条件に信頼できるというわけではありません。中小業者にも弱点はありますし、残念ながら誠実とは言えない業者も存在します。売主として正しい判断をするためには、地場業者のリスクについても冷静に把握しておく必要があります。
広告リーチの限界
地場業者の弱点として最初に挙げられるのが、広告・集客力の限界です。
大手ポータルサイトへの掲載枠や、自社サイトへの集客において、地場の中小業者は大手に劣ることが多い。物件情報がより少ない買主候補にしか届かないとすれば、それは売却機会の損失につながります。
ただしこの点については、レインズへの登録を通じて他社が買主を探してくれるという補完機能があるため、致命的な弱点とは言い切れません。問題になるのは、そのレインズへの登録や他社との協力に消極的な業者を選んでしまった場合です。
業者の質を見極める重要性
中小業者の中には、長年の経験と誠実さを持ち合わせた優れた業者がいる一方で、知識・経験が不足していたり、対応が雑だったりする業者も存在します。大手であれば一定の研修制度や社内チェック体制がありますが、小規模な業者ではそうした仕組みが整っていないことも少なくありません。
また、地場業者の中にも囲い込みに近い行為をする業者がゼロではない点は正直に述べておきます。集客力が弱いために成立しにくいとはいえ、業者の姿勢そのものは会社の規模では判断できません。
避けるべき業者のサイン
では、信頼できる業者とそうでない業者を、売主はどのように見分ければよいのでしょうか。以下のような言動や対応が見られた場合は、注意が必要です。
査定額が突出して高い。
他社より明らかに高い査定額を提示してくる業者は要注意です。「高く売れる」と言って媒介契約を取得し、その後に値下げを繰り返す「高値つり上げ」は、業界における典型的な悪習の一つです。査定額はあくまで見込みであり、根拠のある説明ができるかどうかを確認しましょう。
レインズへの登録に消極的な素振りを見せる。
「うちだけで買主を見つけますから」「レインズに出さない方が話がスムーズです」などと言う業者は、囲い込みに近い発想を持っている可能性があります。
連絡・報告が遅い、または少ない。
売却活動の進捗報告は、専任媒介契約であれば2週間に1回以上、専任専属媒介契約であれば1週間に1回以上行う義務が法律で定められています。この報告が滞る業者は、活動自体が不十分である可能性があります。
担当者が物件やエリアをよく知らない。
地場業者を選ぶ意味は地域への精通にあります。物件周辺の相場観や需要についての質問に、具体的な答えが返ってこない担当者であれば、地場業者のメリットを享受できません。
契約を急かす。
じっくり検討する時間を与えず、その場での契約締結を求めてくる業者は、売主の都合より自社の都合を優先している可能性があります。信頼できる業者は、売主が納得するまで説明を尽くします。
複数の業者に話を聞くことの重要性
地場業者を選ぶ際には、一社だけで判断せず、同じエリアを商圏とする複数の業者に話を聞くことを強くお勧めします。査定額だけでなく、担当者の説明の質、エリアへの知識、報告体制についての説明など、複数社を比較することで初めて見えてくるものがあります。
良い業者は、比較されることを恐れません。むしろ自社の強みを自信を持って説明してくれるはずです。
売却ケース別の推奨選択

結論は「どんな物件でも地場業者」、理由は物件によって異なる
大手と地場、どちらに依頼すべきかという問いに対する本記事の答えはシンプルです。需要が高い物件でも低い物件でも、地場の中小業者を基本の選択肢とすることに合理性があります。ただしその理由は、物件の需要の高低によって異なります。
需要が高い物件こそ、地場業者を選ぶべき理由が大きい
都市部の人気エリアにある分譲マンションや、駅近の一戸建てなど、市場での需要が高い物件は、大手業者による囲い込みリスクが最も高くなるケースです。
買主候補が多く大手の集客力だけで内覧希望者が集まりやすいため、業者にとって「自社だけで買主を見つけられる」という確信が持ちやすい。売買価格が高額になりやすい分、両手で得られる手数料も大きくなります。囲い込みに踏み切る動機・実行可能性・旨みの三拍子が、需要の高い物件でこそ揃ってしまうのです。
需要が高い物件は、大手の広告力が最も活きる物件でもあります。しかしその「強み」が同時に囲い込みの温床になるという現実を、売主はしっかりと認識しておく必要があります。こうした物件だからこそ、囲い込みをする実益が構造的に生まれにくい地場業者に依頼することが、売主の利益を守る合理的な選択になります。
需要が低い物件は、大手・地場の差が縮まる
郊外・地方の一戸建てや土地、あるいは再建築不可物件・古家付き土地・狭小地といった特殊物件は、需要が限定的なため囲い込みリスク自体が低くなります。大手であっても自社だけで買主を見つけることが難しく、他社との協力なしに成約できないケースが多いからです。囲い込みをしたくてもできない、というのが実態に近い。
この意味では、需要が低い物件において大手・地場の選択は、囲い込みリスクという観点からはどちらでも大きな差はありません。
ただし囲い込みリスクとは別に、地場業者が持つ「地域への精通」という強みは、需要が低い物件でこそ光ります。買主候補が地元在住者や近隣からの住み替え希望者に限られるこうした物件では、ポータルサイトへの広告力より、地域内の人脈ネットワークと地元の需要への肌感覚が成約に直結するからです。囲い込みリスクを度外視しても、地場業者に分があるケースが多いと言えます。
結局、どんな物件でも地場業者を選ぶことに合理性がある
需要が高い物件では「囲い込みリスクを避けるため」に、需要が低い物件では「地域精通の強みを活かすため」に、地場業者を選ぶ理由があります。理由は異なりますが、結論は一致します。
大手を選ぶことが明確に有利になるケースは、実は限られています。売主が主体的に動き、囲い込みへの監視を怠らないことを前提とするなら大手も選択肢になりますが、それができるなら最初から地場業者を選んだ方がシンプルです。
失敗しない業者選び・契約の実践ポイント

査定額だけで選ばない
業者選びの入口となる「査定」において、最も避けるべき失敗が査定額だけで業者を選ぶことです。
査定額はあくまで「この価格で売れる可能性がある」という見込みに過ぎず、その金額での売却を保証するものではありません。にもかかわらず、複数社に査定を依頼した場合、人間の心理として最も高い金額を提示した業者に惹かれがちです。
悪質な業者はこの心理を利用します。根拠のない高値査定で媒介契約を取得し、売れない期間が続いたところで「市場の反応を見ると、少し価格を下げた方が良いと思います」と値下げを促す。これが「高値つり上げ」と呼ばれる手口です。結果として売却期間が長引き、最終的には適正価格を下回る金額で売却せざるを得なくなるケースも少なくありません。
査定額の高低ではなく、その金額の根拠を説明できるかどうかを業者選びの基準にしてください。周辺の成約事例、物件の個別要因、現在の市場動向を踏まえた具体的な説明ができる担当者こそ、信頼に値します。
媒介契約の種類と囲い込みの関係を理解する
売主が業者と結ぶ「媒介契約」には、一般媒介契約・専任媒介契約・専属専任媒介契約の3種類があります。この選択が囲い込みリスクと深く関わっています。
専任媒介契約・専属専任媒介契約は、売主が依頼できる業者を1社に限定する契約です。業者にとっては他社に横取りされる心配がなく、積極的に売却活動に取り組むインセンティブが生まれるとされています。一方で、1社独占になるからこそ囲い込みが成立しやすくなるという側面もあります。
一般媒介契約は複数の業者に同時に依頼できる契約です。各社が競って買主を探すため、囲い込みが構造的に成立しにくくなります。特に需要が高く買主が集まりやすい物件においては、一般媒介契約を活用して複数の地場業者に依頼することが、囲い込みへの最も有効な自衛策の一つになります。
ただし一般媒介にも注意点があります。各社にとって「他社が先に成約するかもしれない」という意識から、積極的な売却活動が期待しにくい面があります。複数社への定期的な進捗確認を怠らないことが重要です。
媒介契約の詳細についてはコチラ。
媒介契約の選び方で損をしない|一般・専任・専属専任の違いを売主目線で徹底解説
レインズの登録状況を自分で確認する
専任媒介契約・専属専任媒介契約を結んだ場合、業者にはレインズへの登録義務があります。専任媒介契約では契約締結から7日以内、専属専任媒介契約では5日以内の登録が義務づけられています。
そして売主には、自分の物件がレインズに登録されているかどうかを確認する権利があります。業者からレインズ登録証明書を受け取ることができますので、必ず確認するようにしてください。
しかし登録されているかどうかだけでは不十分です。前述のように、登録はしながら他社からの問い合わせを遮断するという手口があるからです。登録後も定期的に業者へ「他社からの問い合わせはありますか」と確認する習慣を持つことが重要です。問い合わせが極端に少ない状況が続く場合は、囲い込みが行われている可能性を疑う一つのサインになります。
担当者を見極める質問例
最終的に売却の質を左右するのは、会社の規模やブランドではなく担当者個人の能力と誠実さです。初回の面談・査定時に、以下のような質問を投げかけてみることをお勧めします。
「この物件の周辺で、直近半年以内に成約した似た物件はありますか?その成約価格を教えてもらえますか?」——具体的な成約事例をすぐに示せるかどうかで、エリアへの精通度がわかります。
「レインズへの登録はいつ行いますか?登録後に証明書をいただけますか?」——この質問に対して曖昧な返答をする業者は要注意です。
「他社から問い合わせがあった場合、どのように対応しますか?」——当たり前の質問に聞こえますが、この問いへの答え方に業者の姿勢が滲み出ます。「もちろんすべての問い合わせに対応します」と即答できる業者と、言葉を濁す業者では、信頼性に大きな差があります。
「売却活動中の報告はどのくらいの頻度で行ってもらえますか?」——法律上の義務を超えて、こまめな報告を自発的に約束してくれる担当者かどうかを確認します。
まとめ

「大手=安心」という神話を超えて
不動産売却において「大手なら安心」という感覚は、多くの売主が自然に抱くものです。しかしこの記事を通じてお伝えしてきたように、その安心感が根拠のないものである場合、売主自身の利益を損なうリスクがあります。
大手業者の強みは確かに存在します。しかしその強みの裏側には、囲い込みという構造的な問題が潜んでいます。そして最も厄介なのは、囲い込みによって損をした売主が、そのことに永遠に気づかないまま取引を終えてしまうという現実です。
地場の中小業者を基本の選択肢に
この記事を通じて一貫してお伝えしてきたことは、地場の中小業者を基本の選択肢として考えることには、明確な合理性があるということです。
需要が高い物件では囲い込みリスクを避けるために、需要が低い物件では地域精通の強みを活かすために。理由は物件によって異なりますが、どのようなケースでも地場業者を選ぶ根拠があります。
もちろん地場業者であれば無条件に信頼できるわけではありません。査定額の根拠を丁寧に説明できるか、レインズへの登録に積極的か、報告をこまめに行うか。こうした点を自分の目で確かめたうえで、信頼できる担当者を見つけることが重要です。
売主自身が主体的に動くことの重要性
不動産売却は、業者に任せきりにしていれば良い結果が得られるというものではありません。売主自身が仕組みを理解し、主体的に関わることが、自分の利益を守るための最大の武器になります。
レインズへの登録を確認する、他社からの問い合わせ状況を定期的に確認する、担当者に遠慮せず質問する。こうした一つひとつの行動が、囲い込みへの抑止力になります。業者にとって「この売主はよく分かっている」と思わせることが、誠実な対応を引き出す最も効果的な方法でもあります。
最後に
不動産売却は、多くの方にとって人生で何度もある経験ではありません。だからこそ、その一度の取引で後悔しないために、正しい知識を持って臨んでほしいと思います。
大切な資産を売却するとき、その価値を最大限に引き出せるかどうかは、誰に頼むかという最初の判断にかかっています。「大手だから」という理由だけで業者を選ぶのではなく、この記事でお伝えした視点を持って、納得のいく売却を実現してください。
執筆者:松村保誠
宅建士・1級FP技能士・マンション管理士
宅建士3200名超を指導、不動産関連著書9冊


